- TVCM ムーヴ キャンバス ストライプス 「カフェと友人」篇(15秒) ダイハツ公式
- CM曲は「エリック・サティ」の「ピカデリー」
- 花王「もったいないをほっとけないの唄」篇 60秒 CM
- スコット・ジョプリンの「エンターティナー」と似てる?
- 「タイムラグ」の「ラグタイム」
- エリックサティは酒場のピアノ弾きだった
- 「ラグタイム」とは「ふざけたリズム」
- 「エンターティナー」も「ラグタイム」
- 酔っ払い相手は武者修行
- 今回のお話
TVCM ムーヴ キャンバス ストライプス 「カフェと友人」篇(15秒) ダイハツ公式
女優の伊藤沙莉(さいり)さんが、客が並ぶほど人気の「ORANGE(オレンジ)」というカフェで、ランチセットを買ってから、ダイハツキャンバスに乗って、友人を迎えに行きます。
伊藤沙莉:「私とキャンバスは似ている」
とつぶやきながら、友人と待ち合わせの場所まで行くと、なんとそこも「ORANGE(オレンジ)」というカフェでした。
カフェの前に座って待っている友人に、伊藤沙莉さんが車の窓から声をかけます。
伊藤沙莉:「お〜い!」
気がついた友人は立ち上がって駆け寄りながら、
友人:「買っといたよ〜!」
友人が見せる袋を見ると、まさに伊藤沙莉さんがさっき買ったのと同じ「ORANGE(おれんじ)」のランチ!
伊藤沙莉:「あ、かぶった!」
まあ、そんなことも、ダイハツキャンバスがあれば、楽しい笑いになってしまいます。
伊藤沙莉:「ダイハツ、私のキャンバス」
CM曲は「エリック・サティ」の「ピカデリー」
「キャンバス」が右折するT字路に、分かれ道の守り神であるニコニコお地蔵さんがいたり、待ち合わせ場所が、倉敷らしき屋敷が連なる風景だったり、楽しいほのぼの感がありますが、バックに流れている音楽も、その雰囲気に合った浮き浮きするようなピアノ曲ですね。
この曲はフランスの作曲家「エリック・サティ」の「ピカデリー」というピアノ曲です。下の視聴版のジャケットの絵は、「エリック・サティ」の自身による自画像です。
「ピカデリー」は、日本では映画館の名前にもなっていますが、イギリスはロンドンの中心地にある、劇場やパブ、ショップなどが立ち並んで、観光客でにぎわう繁華街のメインストリート「ピカデリー」のことでしょうか。
だとすれば、この曲は「ピカデリーストリート」、あるいはその中心にある広場「ピカデリーサーカス」を行き交う人々の、わき立つように浮き浮きした気分をイメージした音楽、ということになりますね。
サティ:ピカデリー (ピアノ)クラーラ・ケルメンディ( Klara Kormendi)
このエリック・サティの曲「ピカデリー」は、モダンな感じがウケているのか大人気で、こちらのCMにも使われています。
花王「もったいないをほっとけないの唄」篇 60秒 CM
「ピカデリー」のメロディーに載せているSDGs(Sustainable Development Goals)(持続可能な開発目標)を意識した歌詞はこちらです。
「もったいないをほっとけないの唄」
もったいないを、ああ〜
ほっとけないの唄、ああ〜
泡がさっと落ちないと
お水がもったいない〜(もったいな〜い)
量がちゃんと量れてないと
洗剤もったいな〜い(もったいな〜い)
リサイクルとか詰め替えとかやらなきゃもったいな〜い
そう、私たちの毎日は
あっちもこっちももったいな〜い
どんな小さなもったいないも花王はごまかさない(ごまかさない)
どんな難しいもったいないも
花王はあきらめな〜い(あきらめない)
誰かがやらなければ未来ははじまらな〜い
だから私たち花王は
もったいない〜をほっとけない
もったいない〜をほっとけない
もったいない〜を〜ほっとけな〜い
スコット・ジョプリンの「エンターティナー」と似てる?
この楽しそうな音楽、エリック・サティの「ピカデリー」を聞いて、思い出したのが、スコット・ジョプリンの「エンターティナー」です。
1973年の映画「スティング」で使われていましたが、なんだかちょっと似ている雰囲気の曲だったな、と思い出したのです。
スコット・ジョプリン「エンターティナー」
どうでしょう、私には、2曲ともにリズムのノリが良くて、楽しそうな雰囲気が似ているような気がします。
「タイムラグ」の「ラグタイム」
「ラグタイム」について、その意味をちょっと調べてみました。
リズムの左手はマーチ
エリック・サティの「ピカデリー」には「マーチ」というサブタイトルが付いています。
「マーチ」は、人が行進する時の行進曲なので、左、右、左、右、いっち、に、いっち、に、ワン、ツー、ワン、ツーという2拍子のリズムです。人生はワンツーパンチです。
サティ ピカデリー Risa Tomiyama
ピアノを弾く左手の動きを見ていると、鍵盤の音の低い方と中間あたりを行ったり来たりしていて、1、2、1、2、ずん、ちゃ、ずん、ちゃ、と元気に歩けるマーチの2拍子になっているのがよく分かります。
メロディーの右手はシンコペーション
右手はどうかと言うと、「シンコペーション」というテクニックを使って、メロディーの次の音をノリノリ前のめりに先取りしてしまう、というカッコいい、元気もいいメロディーを弾いています。
左手の元気のいいリズムとあいまって、浮き浮きする気分になってきますね。
このスタイルの音楽のことを「ラグタイム(Ragtime)」と言います。
よく目にするのは、アメリカ西部劇の酒場のピアノで演奏される場面です。映画「スティング」の時代背景にもピッタリのスタイルの曲なんですね。
エリックサティは酒場のピアノ弾きだった
実際、エリック・サティはフランスはパリ、モンマルトルの酒場というのか、キャバレーと言うのか大規模な音楽喫茶とも言うべき「カフェ・コンセール・シャ・ノワール」でピアノを弾いていました。ここにはドビュッシー、ジャン・コクトー、ピカソなども常連客として来ていたようです。
「ラグタイム」とは「ふざけたリズム」
そして、この「ラグタイム」の場合の「タイム (time)」は「時間」のことではなく、「拍子」とか「リズム」のことです。
「ラグ (Rag)」は「ボロ切れ」か
「ラグ (Rag)」は「ボロ切れ」のことだそうで、合わせると「ボロリズム」。
「ポリリズム」なら聞いたことはありますが、「ボロリズム」とは!
このスタイルで弾くことを「Ragging(ラギング)」と言ったそうです。
なぜそう呼ばれることになったのかを考えてみました。
先取りシンコペーション
右手が、メロディーの先の音を1拍とか1/2拍とかを先取りしてしまうために、むしろ規則正しくリズムを取ってちゃんと仕事をしている左手の方が遅れているかのように聞こえてしまう、なので、リズムがきちんとしていないように聞こえるリズム、ボロボロなリズム、ボロリズムだと呼ばれた、のでしょうか。
だとすると、ちゃんと、きちんと仕事をしている左手に対して、とても失礼な呼び方だと思います。
「タイムラグ」があるので「ラグタイム」?
私としては、「メロディーとリズムの間に『タイムラグ』があるので『ラグタイム』なのだ」という、日本人向けダジャレ的説明の方がおすすめです。
まあ、タイムラグは「Time-lag」で、ラグタイムは「Rag-time」なのですけどね。
「Rag」は動詞なら「悪ふざけをする」
もう一つの解釈は、「Rag」には動詞として、「悪ふざけをする」とか「からかう」という意味もあるので、「メロディーがリズムを差し置いて、リズムより先行してしまうなんて、ふざけてるとしか思えない」ということで「ふざけたリズム」と言う意味だったのかも知れません。
そのほうが陽気で楽しげな、酔っ払いにも受けそうなこの音楽にはピッタリ当てはまりそうです。
「エンターティナー」も「ラグタイム」
では、今度は、似ている(と私が思う)雰囲気の「エンターティナー」のピアノ演奏も、左手に注目して見てみましょう。
「シンコペーション」は、この映像の楽譜上で、同じ音程の音符同士を弧を描いた線でつなげている部分です。
Scott Joplin "The Entertainer" Paul Barton, FEURICH HP piano
どうでしょう、やはりエリック・サティの「ピカデリー」と同じように、左手が、鍵盤の音の低い方と中間部あたりを行ったり来たりしているように見えます。
これで「ズンちゃ、ズンちゃ」の、行進曲的2拍子がはっきりしますね。
そして、右手もシンコペーションを多用して、左手の規則正しいリズムより先行している場面が多いので、左手が遅れているように聞こえます。
スコット・ジョプリンは「キング・オブ・ラグタイム」
なので、「エンターティナー」も「ラグタイム」音楽であることが確定です。
と言うより、スコット・ジョプリンは「キング・オブ・ラグタイム」と呼ばれるほどの、ラグタイム音楽を代表する人なのでした。
スコット・ジョプリンも、エリックサティと同じように、アメリカミズーリ州セダリアという街で、キャバレー「メイプル・リーフ・クラブ」のピアノ弾きとして、浮かれている酔客たちを喜ばせる音楽を提供していたのでした。
酔っ払い相手は武者修行
エリック・サティも、スコット・ジョプリンも共通して、キャバレーのようなところで、多少なりアルコールの入った人たちの遠慮会釈のない、しかし、それだけ本音の、ある意味本質を突いた評価にさらされる立場でピアノ演奏をしていたので、どんな音楽が酔っ払いに受けるのか、を実地にリアルタイムリサーチすることが出来たんですね。
受ける音楽なのかどうか、反応がすぐに分かるわけですから、これはかなりの勉強になると思います。
そういえば、あのビートルズも同じような演奏場所、港町リバプールの「キャバーン・クラブ」や、ハンブルクの「スター・クラブ」で酔っ払い相手に腕を磨いたのでした。
今回のお話
今回は「エリック・サティ」の「ピカデリー」と「スコット・ジョプリン」の「エンターティナー 」は似ている、というところから調べてみたら、両方とも「ラグタイム」というスタイルの音楽だということが分かった、というお話でした。
そして二人の作曲家ともに、酔客相手にピアノを演奏していた、という、興味深い共通点があることが分かりました。
勝手きままな酔っ払いにこちらを向かせて、しかも楽しませるにはかなりのエネルギーとポテンシャルが必要でしょうね。
いっぽう、酔客ご歓談の邪魔にならないような、それでいてリラックスムードをかもし出す、いわゆるラウンジミュージックのような曲も必要だったかもしれません。
その当時のことを、その場にいるつもりになって、いろいろ想像しながら聞いてみると、またさらに興味がわいて来る作曲家だと思います。