おしゃれで軽やかで、ちょっと気だるくて、それでいて爽やかなフレンチ・ポップス「さよならを教えて」(フランソワーズ・アルディ)は、いまだに人気で、サントリークラフトボス「ミルキープレッソ」のCMでもそのメロディーが流れています。
CMではフランスの街角をイメージしたようなセットと、フランス語のような「ニューニュー語」が、フランス気分をかもし出します。
フランソワーズアルディによる「さよならを教えて」
こちらは本家、1968年発表のフランソワーズアルディによる「さよならを教えて」の映像です。
フランス語と日本語の歌詞付きです。ちょっと映像と音がずれてますが。
"Comment te dire adieu" Lyrics:Serge Gainsbourg /music:Arnold Goland
「さよならを教えて」の元歌
そんなオシャレでクールなフレンチ・ポップス「さよならを教えて」に、実は元歌があったことを、ひょんなことから知りました。
それを知った時、なるほど、そうだったのかと、納得するものがありました。
この曲のサビの部分は歌ではなく、歌詞の、ささやくような「語り」になっているのですが、背後に流れているメロディーがなかなかサビっぽくて良いので、どうしてこのメロディーで歌わないのかな、と思っていたのです。
アメリカからフランスへ
こちらがそもそもの元歌です。1966年アメリカの、マーガレット・ホワイティングさんによる歌唱。作詞はビートルズ「レット・イット・ビー」をプロデュースしたことで有名な、あの「フィル・スペクター」と関係が深い、と言われる「ジャック・ゴールド」という人、作曲は「アーノルド・ゴーランド」です。
"It Hurts to Say Goodbye" Lyrics:Jack Gold/Music:Arnold Goland
三連符に乗った、いわゆる「ロッカバラード」ですね。
こちらの元歌では、フランソワーズ・アルディ版では歌詞のつぶやきの背後で、バックグラウンドミュージックのように流れている、いわゆる「サビ」のメロディーに、しっかりと歌声が乗っているので、欲求不満にならずに、気持ちよく聞ける感じがします。
もちろん、フランソワーズ・アルディ版のささやくような「つぶやき」も、聞く人に、内緒の話を聞いているような親密感を与える、という効果が確かにあるので、それぞれの良さ、というところですね。
さて、それでは、どうやって元歌からフランソワーズ・アルディ版に発展したのかを調べてみることにしました。
元歌から2つの流れに
この曲はここから、2つの方向の流れに分かれて発展することとなったのです。
ドラマチックな流れ
一つの方向は、よりドラマチックな方向です。
1967年、イギリスの「ヴェラ・リン」によってカバーされて、これは大ヒットとなりました。
こちらは出だしからして、バッハの壮大なオルガン曲が始まりそうなイントロで、最初から盛り上げ精神モリモリです。
ゆったりとしておおらかな「ロッカバラード」ではありますが、元歌に比べても、さらに、とても情感たっぷりに、オペラ的と言うか、思いを込めて歌い上げられています。
どうですか、このサビの盛り上がり方!
思いの丈をしっかり歌いきった感があって、これはこれで感動的ですね。
実際、ヒットしています。
軽快な流れ
そして、もう一つの方向は、よりアップテンポな方向で、軽快に演奏されるインストルメンタルのスタイルを取るようになりました。
こちらはハモンドオルガンのボサノバスタイルで、カッコよくて軽いノリですね。
この流れの頂点と思われる、軽くてカッコいい、それでいてきらびやかな、アップテンポ演奏の代表が、映画音楽、ムード音楽の分野で知られる「カラベリ」のバージョンです。
こちらの方向の流れが出来たのには、実は根本的な理由があります。
そもそものフランソワーズ・アルディ版が作られるきっかけになった、と言うより、元になった「歌なし、曲だけ」バージョンがあるのです。
作曲者によるインストルメンタルバージョン
たぶんこうだったんじゃないか劇場
元歌の作曲者であるアーノルド・ゴーランドArnold Golandが、自身の楽団で1967年に録音した、この曲の歌のないインストルメンタル版があるのですが、それを偶然フランソワーズ・アルディが聞いて、えらく気に入った。
そこで、彼女のマネージャーが、当時売れっ子だった「セルジュ・ゲンスブール」に作詞を頼んだ。
頼まれた「セルジュ・ゲンスブール」は、元歌の方を参考にしたのではなく、フランソワーズ・アルディが聞いて気に入った、その「アーノルド・ゴーランド」の、歌のないインストルメンタル版の曲の方を元にして作詞をした。
そうして、フランソワーズ・アルディ版のオシャレでクールで、感情を抑えた「さよならを教えて」が誕生した、という経緯があるんですね。
そのインストルメンタル版と思われるものがこちらです。
www.youtube.com
確かに、こちらにご紹介のインストルメンタル版の演奏がそれだとすると、歌のパートはトランペットが吹いているものの、アレンジはほぼそのまま、ボサノバふうのシンコペーションが効いた、フランソワーズ・アルディ版の「さよならを教えて」のアレンジなんですね。
フランソワーズ・アルディが聞いてピンと来た、これはぜひとも私が歌いたい、と思うほどに気に入った、というのも納得できる感じです。
なので、「セルジュ・ゲンスブール」は「元歌」の訳詞をしたわけではなく、この「元曲」に当てはめて新しく作詞した、という方が正確だと思います。
フランソワーズはホテルのラウンジで耳にした?
このCDは「ホテルビブロスのラウンジに流れているような曲」というコンセプトに合う曲を集めた、いわゆるコンピレーションアルバムなんですね。
なので、もしかして、フランソワーズ・アルディがこの演奏のみ版の曲を聞いたのは、まさに、サントロペにあるホテルビブロスのラウンジのような、ちょっと気だるいオシャレな空間の中で、だったのかも知れません。
当時流行のサウンドだった
また、リズムに乗っていながら軽やかな、抑え気味のトランペットの使い方は、当時大流行だった「ハーブ・アルパートとティファナブラス」のトランペット演奏法にそっくりです。
リズムはこれも当時大はやりだった、飛び跳ねる曲調が特徴の「バート・バカラック」のヒット曲の影響が見て取れます。
今回のお話
今回は、フレンチ・ポップスのフランソワーズ・アルディの「さよならを教えて」にはアメリカ製の元歌があったことを発見したので、その元歌からどうやってフランソワーズ・アルディ版が出来たのかを追ってみたら、作曲者自身によるインストルメンタル版が、セルジュ・ゲンズブールの作詞の元になった曲だった、つまり、「元歌」と言うより、「元曲」と言う方が正確である、というお話でした。