一音九九楽

一音九九楽

いちおんくくらく★ひとつの音からたくさんの楽しいこと

「ゴールデン・イヤリング」の元曲は「ツィゴイネルワイゼン」第2楽章からの「ジプシームーン」だった

 

「ザ・サウンズ」の「ゴールデン・イヤリング」

私が「ゴールデン・イヤリング」" Golden Earring "(黄金の耳飾り)を初めて聞いたのは、北欧ムーミンの国フィンランドのエレキバンド、「ザ・サウンズ」のノリノリの演奏でした。

The Sounds(ザ・サウンズ)
" Golden Earring "「ゴールデン・イヤリング」

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日本で言うところのグループ・サウンズですね。

同じく北欧スエーデンのエレキバンド「スプートニクス」もそうでしたが、エレキギター特有の宇宙的な、クリーンでクリアな音色が日本人に受けて、よくラジオから流れていました。

私は、この「ゴールデン・イヤリング」という曲はてっきり「ザ・サウンズ」が作曲したオリジナルだと思いこんでおりました。

ところが、つい最近、ジャズピアノの演奏を聞く機会があり、そこでこの「ゴールデン・イヤリング」のメロディーが流れて来たのですね。

ジャズのスタンダード・ナンバー

そこでびっくりして調べてみると、何と、「ゴールデン・イヤリング」は、もともとジャズのスタンダード・ナンバーであることが分かりました。

レイ・ブライアント(Ray Bryant)トリオ"Golden Earrings"

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もとは「ビクター・ヤング」作曲の映画主題歌

で、さらにそのもともとは、1947年(昭和22年)公開、「マレーネ・ディートリッヒ」出演のアメリカ映画、「ゴールデン・イヤリング」のテーマソングであることが分かりました。

そして、このテーマソングを作曲したのが、何とあの「エデンの東」の作曲者として知られた「ビクター・ヤング」なのでした。

映画「ゴールデン・イヤリング」ではジプシーが重要な役割を果たしており、映画ではジプシー女性役であるマレーネ・ディートリッヒがテーマソングを歌ってます。

そのテーマソングは色々なアーチストにカバーされました.

こちらは「ダイナ・ショア」が歌っています。 

Dinah Shore(ダイナ・ショア)" Golden Earring "(ゴールデン・イヤリング)

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歌詞はこちらです。

" Golden Eearrings "


There's a story the gypsies know is true
ジプシーたちが本当のことだと知っている言い伝えがある

That when your love wears golden earrings,
もしあなたの恋人が金のイヤリングをしていたら、

She belongs to you.
彼女はあなたのものだ、という言い伝え


An old love story that's known to very few,
とても古い言い伝えで、知っている人はごくわずか

But if you wear these golden earrings,
だけど、あなたがこの金のイヤリングをしているなら

Love will come to you.
恋人があなたのところにやって来るでしょう

 
By the burning fire they will glow with ev'ry coal,
燃えている炎のそばで、石炭をくべるたびに金のイヤリングは輝くでしょう

You will hear desire whisper low inside your soul.
あなたは聞くでしょう、あなたの魂の中で欲望がひそかにささやくのを


So be my gypsy,
だから、私のジプシーになって

Make love your guiding light,
恋をさせてね、あなたの導きの光で


And let this pair of golden earrings
そして、この二つの金のイヤリングにかかっている

Cast their spell tonight.
魔法を今夜、効かせてね


 
composer: Victor Young
lyrics : Ray Evans and Jay Livingston

男性がイヤリング?(ペギー・リー版)

なお、映画公開のあとで一番ヒットしたのはペギー・リー版なのですが、歌詞の3行目にある "She" "He" になっているんですね。

そうすると、恋人である彼、つまり男性がイヤリングを着けているのか?ということになります。今でこそ、男性もピアスをする時代ですが、この映画の時代にはちょっと違和感があります。

しかしながら、あえてそうしたのには映画のストーリー上、そうすべき理由がちゃんとあるのでした。これは映画を見ていない人にはネタバレになってしまうので、詳しくは書きませんが、イヤリングをしているのは「ジプシーの男」である、ということがヒントです。

今回私が聞きまくったさまざまな歌手による「ゴールデン・イヤリング」に限って言えば、ペギー・リー版以外は全て "He" ではなく "She" になっていました。

そのほうが、一般的なラブソングとしては意味が通じやすいからなんでしょう。

ということは、映画の内容に忠実なのは、ぺギー・リー版、ということになりますね。

Peggy Lee (ペギー・リー)" Golden Earring "(ゴールデン・イヤリング)

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さらに元曲はサラサーテ「ツィゴイネルワイゼン」第2楽章

そして、その「ビクター・ヤング」がテーマソングを作曲するにあたり、ジプシーが重要な役割の映画なので、参考にしたと思われたのが、ジプシー音楽の代表曲、あのサラサーテの「ツィゴイネルワイゼン」(1878年作曲、サラサーテ本人によるレコーディングは1904年)なのでした。

それで、どこかで聞いたような、懐かしい感じもするメロディーなんですね。

改めて「ツィゴイネルワイゼン」を聞いてみると、たしかにそのメロディーが出てきます。ハンガリー民謡だそうです。

「イツァーク・パールマン」と「ジェームズ・レヴァイン」

Itzhak Perlman Sarasate Zigeunerweisen
イツァーク・パールマン、サラサーテ「ツィゴイネルワイゼン」

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この映像では、ダイナミックな演奏で定評のあるバイオリニスト、「イツァーク・パールマン」さんも、指揮者の「ジェームズ・レヴァイン」さんもよく似たヘアースタイル、ボディースタイル、メガネ、なので、パッと見には見分けがつかないほどです。

「イツァーク・パールマン」さんは両手が杖でふさがっているので、持って来ているのはポケットに挿せるくらい軽い指揮棒一本だけです。

指揮棒?

指揮棒は指揮者「ジェームズ・レヴァイン」さんのものでは?

実はバイオリンと弓は、指揮者「ジェームズ・レヴァイン」さんが持って来ています。

舞台上で交換してもらうのですが、それをネタにして観客の笑いを誘っています。

「つかみはOK」というわけですが、なかなか気の利いたやり方ですね。

第2楽章が採られた

全3楽章のうちの第2楽章にあたる、映像の 6:00 あたりから、「ゴールデン・イヤリング」に取り入れられたメロディーが出てきます。

こうして聞いてみると、「ツィゴイネルワイゼン」の情熱や哀愁、興奮、情念、爽快感などの入り混じった感情のうちの、歌になりそうなロマンチックで情緒的なところを「ビクター・ヤング」は、うまく取り出していることが分かりますね。

「ツィゴイネル」とは「ジプシー」のこと

ちなみに、「ツィゴイネル」とはドイツ語で、英語の「ジプシー」のこと。フランス語では「ジタン」ですね。そして「ワイゼン」はドイツ語で「メロディー」のことです。

合わせると、「ツィゴイネルワイゼン」の訳としては、「ジプシーのメロディー」ということになりますね。

なお、ジプシー自身は、自分たちのことを「ロマ」と言っています。

「ビクター・ヤング」より以前に「ジプシイの月」があった

そして、実は、1947年の「ビクター・ヤング」よりさらに以前の、昭和9年(1934年)、この第2楽章は日本では「ジプシイの月」として、東海林 太郎(しょうじ たろう)さんの歌唱、サトウハチロー作詞、山田栄一編曲で発売されているのです。

東海林太郎「ジプシイの月」

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サトウハチローさんの作詞なんですね。

「ジプシイの月」

 

月よ

ジプシイの月よ

うすれゆく光よ

この世はバラの小路

さびしきジプシイの月よ

(間奏)

この世はバラの小路

さびしきジプシイの月よ

 

編曲:山田栄一

作詞:サトウハチロー

「さびしき」なんて言葉があったりするので、ロマンチックで情緒的なところが全くなくなってしまって、わびしい感じさえしてしまいますね。

「バラの小径」もバラの花の方ではなくて、バラのトゲがはびこっていて歩きにくい「イバラの小路」のように感じてしまいます。

ディック・ミネさんの「ジプシーの月」

こちらは東海林太郎さんの「ジプシイの月」の1年後、昭和11年(1936年)に初盤が出た「ジプシーの月」です。

ディック・ミネ「ジプシーの月」

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歌詞はこちらです。

「ジプシーの月」

 

青きジプシーの月よ

悩み歌う小鳥

白き光そそぐ

空のジプシーの月よ

(間奏)

黒き髪の乙女

月にむせび泣きぬ

更(ふ)くる夜半(よわ)にひとり

泣くや、ジプシーの月に

 

作詞:入江 静雄
編曲:三根 徳一

 

なお、編曲の「三根 徳一(みね とくいち)」というのはディック・ミネさんの本名で、バックのオーケストラもディック・ミネさんの楽団です。

ディック・ミネさんは「ルイ・アームストロング」もカバーしたヒット曲「ダイナ」では訳詞も手がけていて、多才な人です。

しかしながら、こちらの「ジプシーの月」の歌詞もどうも、「悩み」とか「泣く」などのネガティブな言葉が多くて、あまりロマンチックで幸せな感じはしませんね。

そこで、さらに調べて行くと、もともとの歌詞を直訳したと思われる元歌が、アメリカにありました。

「ジプシーの月」ではなくて、「ジプシーな月」だった。

この元歌になったのは、東海林太郎さんのレコードが出る前年、昭和8年(1933年)の「Gypsy Moon(ジプシームーン)」という歌です。

アメリカ、メトロポリタン・オペラの歌手「Richard Crooks(リチャード・クルックス)」が歌っています。

Richard Crooks(リチャード・クルックス)
" Gypsy Moon "「ジプシームーン」

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歌詞はこちらです。

Gypsy Moon
ジプシーな月

Moon of love, romantic gypsy moon
愛のお月さま、ロマンチックなジプシーお月さま

Shine above, your light will fade too soon
夜空に輝く、あなたの光は早すぎるくらいにすぐに消えてしまう

Life is fair, a path with roses strewn
人生は素晴らしい、バラの花が散りばめられた小路

When you're there, romantic gypsy moon
あなたがそこにいる時はね、ロマンチックなジプシーお月さま

Here each night, my gypsy love I meet
ここで毎夜、私のジプシーな恋人と私は会っている

'Neath your light, the world is at our feet
あなたの光の下では、世界は私たちの足元にあるのです

Moon devine, 'cause you shine
神々しいお月さま、あなたが輝くからなんだよ

Stronger, longer gypsy moon
もっと強く、もっと長く輝いてね、ジプシーなお月さま

 

When you gleam, two hands, two hearts and you
あなたがきらめく時、二つの手と、二つの心と、そしてあなたとが

Make life seem a paradise for two
人生を二人にとっての天国に見えるようにしてくれる

Love is all, two fond hearts beat in tune
愛こそがすべて、二つの好き合う心は調和のビートを打っている

At your call, romantic gypsy moon
あなたからの呼びかけに応えてだよ、ロマンチックでジプシーなお月さま

 

Gypsy Moon 

words by Frank Eytonフランク・エイトン(イギリスの作詞家)
music by Igor Borganoffイゴール・ボルガノフ

こうやって歌詞をよくよく読んでみると、" Gypsy Moon "(ジプシームーン) は、実は「ジプシーにとっての月」、「ジプシーの月」という意味ではないようですね。

" Gypsy Moon " (ジプシームーン)という言葉の本当の意味は、放浪の民であるジプシーのように輝きながら夜空を放浪して、西の地平線にすぐに沈んでしまう月、動かない恒星の間を動いて行く「ジプシーのような月」、気まぐれにさまよい歩く「ジプシーな月」という、月の動きに注目した意味だったのですね。

なお、5行目の "my gypsy love" は、生身の人間である、「私のきまぐれな恋人」、のことだと思われます。

さらにさかのぼるとドイツ語版がありました

さらにさかのぼると、その「Richard Crooks(リチャード・クルックス)」版の5年前に発表された、1928年ものが見つかりました。

Richard Tauber(リヒャルト・タウバー)オーストリアのテノール歌手による録音です。タイトルはズバリ、「 "Zigeunerweisen"(ツィゴイネルワイゼン)」です。

Richard Tauber(リヒャルト・タウバー)
"Zigeunerweisen"ツィゴイネルワイゼン

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こちらは歌詞がドイツ語のようです。

レコードのレーベルを見ると、

" Text " が「 Kurt Schwabach(クルト・シュヴァバッハ)」となっているので、ドイツ語の作詞はこの人によるもののようですね。

作曲はアメリカ版と同じく、「Igor Borganoff(イゴール・ボルガノフ)」さん。

残念ながら私はドイツ語がちんぷんかんぷんなので、歌詞を聞いても内容が分かりません。おそらく、英語版と同内容だとは思うのですが。

「ビクター・ヤング」が参考にしたのは「ジプシームーン」のほうか

こうしてみると、歌詞が何種類もあるようですが、もともとがバイオリン曲なので、好きなように作詞して良いわけですね。

とは言うものの、ドイツ語の内容、さらにもともとのハンガリー民謡だった時の歌詞が知りたいものです。

そして、ここまでさかのぼって見ると、「ゴールデン・イヤリング」を作曲した「ビクター・ヤング」が、作曲の直接のヒントとしたのは、「ツィゴイネルワイゼン」そのものではなく、当時すでにポピュラーな曲として知られていた、「Gypsy Moon(ジプシームーン)」の方だった可能性が高いと思われます。

 

今回のお話

今回は、北欧のエレキバンド「The Sounds(ザ・サウンズ)」のヒット曲「ゴールデン・イヤリング」のルーツを探って行ったら、サラサーテ「ツィゴイネルワイゼン」まで行き着き、もともとはジプシー民謡だった、というところまではたどり着くことが出来た、というお話でした。

さらに機会があれば、そのジプシー民謡のそもそもの歌詞を知りたいと思っています。