一音九九楽

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いちおんくくらく★ひとつの音からたくさんの楽しいこと

トーケンズ「ライオンは寝ている」の「ライオン」って、誰?

 

ライオンは最強の守り神

トーケンズ「ライオンは寝ている」は、1961年のヒット曲ですが、その後ディズニー映画の「ライオンキング」でも使われて、よく知られるようになりました。

www.disney.co.jp

ライオンは怖い

この曲の繰り返しのフレーズが私には、

"I Win My Way"
「アイ・ウィン・マイ・ウェイ」
(「私は私の道を勝ち取った」、ライオンが寝ているすきに抜けがけた、うまく行った、しめしめ)

のように聞こえたので、

「怖いライオンも今は静かに寝ているから、襲われることはないよ、安心しておやすみ、マイダーリン」

という歌だと思っていました。

怖いライオンは、実は味方だった

The Lion Sleeps Tonight The Tokens Re-Stored ReCut Video TRUE Stereo HiQ Hybrid JARichardsFilm


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The Lion Sleeps Tonight
(ライオンは寝ている)

In the jungle, the mighty jungle
ジャングルの中で、力強いジャングルの中で、

The lion sleeps tonight
ライオンは寝ている、今夜、

In the jungle the quiet jungle
ジャングルの中で、静かなジャングルの中で、

The lion sleeps tonight
ライオンは寝ている、今夜、

 

Near the village, the peaceful village
村の近くに、平和な村の近くに、

The lion sleeps tonight
ライオンは寝ている、今夜も、

Near the village, the quiet village
村の近くに、静かな村の近くに、

The lion sleeps tonight
ライオンは寝ている、今夜も、

 

Hush my darling don’t fear my darling
おやすみ、マイダーリン、怖がらないで、マイダーリン

The lion sleeps tonight
ライオンは寝ている、今夜も、

Hush my darling don’t fear my darling
おやすみ、マイダーリン、怖がらないで、マイダーリン、

The lion sleeps tonight
ライオンは寝ている、今夜も、

lyrics:George David Weiss,Luigi Creatore,Hugo Peretti

 

ライオン

ところが、調べてみると、実は内容は正反対で、ライオンは自分たちの最強の守り神であって、

「今はライオンは森の中で寝ているけれど、いざ何かあったら、すぐに目を覚まして、助けてくれるんだ、だから安心しておやすみ、マイダーリン」

という歌らしいことがわかりました。

出だしとエンディングの裏声ボーカルと掛け声は「ズールー語」

そして、イントロとエンディングの裏声ボーカルと、曲中で短く繰り返される掛け声は、"I Win My Way"「アイ・ウィン・マイ・ウェイ」ではなく、”Wimoweh ”(ウィモウェ)と言ってるんですね。

イントロ、アウトロの裏声のボーカルは「ウィモウェ」を長く伸ばして、「ウィーイイ〜イ〜イイ〜イ〜イ〜イ〜イイモンモウェ〜」と歌っています。

「あなたはライオン」

”Wimoweh ”(ウィモウェ)とは、南アフリカ先住民ズールー族の言葉で「あなたはライオン」という意味だそうです。

ただ、この”Wimoweh ”(ウィモウェ)はもともとのズールー語をアメリカ人が英語耳で聞き取ったものなので、原語の発音とはちょっと違います。

耳を澄ます

もともとは、ズールー族歌手のアドリブ

そもそもこの曲「ライオンは寝ている」の、もともとのルーツを探ると、南アフリカ先住民族、ズールー族のソロモン・リンダ(「リンダ」は氏族名です)が「イブニング・バード」というアカペラ・コーラスグループを組んで、 Mbube「ンブべ」(「ライオン」という意味)という曲を録音したことに始まります。

ここでご紹介する、その"Mbube"「ンブべ」という曲は、ほぼ掛け声コーラスのみで構成されていて、それにソロモンリンダの言葉なしの即興メロディーが絡む形です。

こちらの下のYouTube映像のバージョンを聞いていても、トーケンズ版でおなじみのメロディーがなかなか出て来ないのですが、最後の方の、曲の終わりがけ、2分22秒あたりでようやく、ソロモン・リンダが即興で口ずさんでいる、本当に短い、頼りない、鼻歌のようなメロディーが出て来ます。これが、トーケンズ版「ライオンは寝ている」のメロディーの元になっているんですね。

Solomon Linda&The Evening Birds( The First Version ) - Mbube

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ソロモン・リンダは画面左端の背の高い男性です。

ピート・シーガーの耳に入る

この曲は10万枚のヒットとなり、アメリカの伝説的な人権派フォーク歌手ピートシーガーの耳に入ることになります。

ピートシーガーは、この曲を自分のレパートリーに加えて、アメリカ国民に紹介して行きます。

ところが、ピートシーガーはズールー語の掛け声リフレインを聞いたものの、やはり聞いたこともない言葉なので聞き取れません。

本来の発音は、”uyimbube”と表記されるようです。

ズールー語プチ講座

辞書

”uyimbube”(あなたはライオン)を分解すると、

"u-" [ you(あなたは)] 発音としては「ウ」ですね。

"yi-" [ are(である)]  発音は「イ」に近いでしょうか。

"mbube" [ lion(ライオン)] 発音としては、口を閉じた状態からの「ブべ」なので「ンブべ」となります。

合わせると「ウィンブーべ」となるでしょうか。

日本人耳の私には「ジンブーべ」と聞こえてしまいますが、やはり日本人耳の一人には「ジングルベル」と聞こえるそうなので、日本語耳もまた英語耳と同じく、全く当てになりません。

ピートシーガーは忠実に再現

英語耳であるアメリカ人のピートシーガーにも、この言葉は聞き取りにくかったようですが、しかし、こちらのパフォーマンス映像では、最後の方で「ソロモン・リンダ」のオリジナルメインメロディーをチラッと歌うところなど、演奏にあたってはできるだけ原曲に近い再現を目指したことが分かります。

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ピート・シーガー自身も、このリフレインは正確には聞き取れず、”awimboowee”(アウィムブーウィー)とか”awimoweh”(アウィモウェ)というふうに聞こえたようです。

そこで、普通のアメリカ人に分かりやすいようにと、もっと単純化して、”Wimoweh ”(ウィモウェ)という英語表記に落ち着いたんですね。

そして1951年、ピート・シーガー率いるフォークグループ「Weavers(ウィーバーズ)」の演奏でアメリカ国民に紹介します。

この時もまだ歌詞の付いたメロディーはありません。掛け声のみです。

ピート・シーガーのグループ「ウィーバーズ」

こちらの動画は全盛期を過ぎて解散状態だった「ウィーバーズ」が再結成して、懐メロ的なコンサートを開催した時の様子ですね。観客もそれなりの年齢の方々のようです。

Weavers (Re-union) - Wimoweh

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プロによる作詞と本格的なアレンジ

この、歌詞とメロディーのないピートシーガー版の10年後の1961年、この曲に新しい歌詞の作詞をして、あまりにも細々としていて消え入りそうだったメロディーラインも前面にバンと押し出して、ポップで本格的なアレンジも加えて、ピカピカのアメリカンポップスに仕上げたチームがあります。

作詞とアレンジをしたのは、「バードランドの子守唄」”Lullaby of Birdland”(1952)の歌詞を書き、「この素晴らしき世界」"What a Wonderful World" (1968)も作詞した(作曲はBob Thiele)ソングライターでアレンジャーの「ジョージ・デビッド・ワイス」(George David Weiss)でした。

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/d/d4/George_David_Weiss_%28cropped%29.jpg

「ジョージ・デビッド・ワイス」Wikiより

 

彼は他のレコードプロデューサー兼ソングライターの2人(Luigi Creatore , and Hugo Peretti)との3人チームでトーケンズ版を作りました。この3人チームは「好きにならずにいられない」(Can't Help Falling in Love)も、エルヴィス・プレスリーに提供して1961年にヒットさせています。

 

彼は曲作りにあたって、この曲、”uyimbube”についての情報を集めたようです。ピート・シーガーのこの曲についての話も参考になったでしょう。南アフリカ先住民族ズールー族と、植民地化しようとするイギリス軍との歴史も勉強したかも知れません。

その上での作詞のようですね。

「ライオン」は民族の英雄だった

ズールー族の戦士

ズールー族の戦士

「ライオン」とは実際のライオンのことではなく、実は南アフリカ先住ズールー族の氏族長で「シャカ」という名前の、織田信長タイプの指導者のことだ、という説があります。

「シャカ」は、ズールー族の氏族同士の戦いの中で新しい武器を考案し、武力で多くの氏族を打ち負かして配下に従え、外から接近して来たイギリスの新しい文化も取り入れようとし、イギリスと交渉して優位に立とうとしていた矢先に身内に命を奪われてしまいます。

 

アメリカでは、非業の死をとげた人たちを悼む歌にはこんな歌もあります。

アブラハム、マーチン、そしてジョン
Abraham, Martin and John - Lyrics - Dion

youtu.be

歌っているのは、「浮気なスー」のヒットを飛ばした「ディオン」です。

アブラハム、マーチン、ジョン、と来て、ああ、リンカーン、キング牧師、ジョン・F・ケネディの、3人の非業の死を遂げた指導者の歌なんだな~と思ったら、ちゃんとボビー(ロバート・ケネディ)が出て来るんですね。

彼が他の3人と一緒に丘を越えて歩いて行くのが見えるような気がする、あなたがたのおかげで私たちは平和でいられる、と、感動を呼ぶ歌詞ですね。

ビートルズ世代としては「ジョン」には、どうしても「レノン」も重なってしまいますが。

 

そう言えばイギリスでも、ポール・マッカートニーが、「マーチン・ルーサー」の名前が出てくる「幸せのノック」という曲を作ってました。

幸せのノック
Let 'Em In 

youtu.be

誰かがドアをノックしてる、

誰かがベルを鳴らしてる。

ドアを開けて入れてあげてよ。

と歌ったあと、親戚や影響を受けた人の名前を列挙して行くのですが、その中に「マーチン・ルーサー」が出て来るんですね。

 

民族の英雄への鎮魂歌

「シャカ」も、やはり志の途中で非業の死を遂げた、ということで、これらの曲と共通するものがあるのかもしれません。「シャカ」の死後、ズールー族はイギリス軍に負け、南アフリカはイギリスの植民地になりました。

ライオン

UnsplashRémi Boudousquié


ライオン、つまり獰猛(どうもう)で圧倒的な力を持つ「シャカ」はもういないけれど、死んだんじゃない、今も、今夜も、静かだけど底知れぬエネルギーに満ちているジャングルの中にいて、ただ眠っているだけなんだ、何かあったら、いつでも目を覚まして飛び出して助けてくれる、だから私たちの村でも、今夜も平和でいられるんだ、安心しておやすみマイダーリン、という歌なのだ、という説です。

なるほど、そう思えば、「あなたはライオン」というリフレインの言葉は英雄に対する賛辞なので、曲中で延々と繰り返されるのも納得できますね。

 

日本では神社に

日本ではそういう、民衆に支持されながら本意でない運命をたどった人たちは、平将門の神田明神、菅原道真の天満宮、大国主命の出雲大社など、神社に祀られて「あなたのおかげで私たちは平和でいられます。これからもお守りください」と参拝されるのですが、外国では歌になって残って行くんですね。 

狛犬

ちなみに、神社の参道にある狛犬(こまいぬ)ですが、左のツノのあるのが「狛犬」で、右のツノが無い方は「獅子(しし)」つまり、ライオンだそうです。

 

ソプラノ歌手も参加

ところで、トーケンズの映像の中で、メインボーカル人のファルセットよりもっと高音の声の人が、カウンターメロディーを歌詞なしで、はるか上の音階を、空の高みを飛んでいるかのように、歌っていますね。

いったい、誰だろうと映像を穴のあくほど見ていると、怪しいのがベースの人。

担当楽器がエレキベースでファルセットの高い声の人といえば、ビーチボーイズの「ブライアン・ウィルソン」と同じだなあ、とベースの人の口をじっくり見ていたら、どうも口の動きが違いますね。

そもそも、この映像自体、レコードの音に合わせて、演奏したり歌っているフリをする、いわゆる「口パク」のようです。

ソプラノ歌手

で、調べてみましたら、この超ハイハイトーンの声の主は、Anita Darien アニタ・ダリアンというアメリカクラシック界のソプラノ歌手。

ニューヨークシティオペラや、ニューヨークフィルハーモニーで活躍する本物のオペラ歌手なのでした。

実際、トーケンズのライブステージでも、しっかり女性が参加してるんですね。

The Tokens - The Lion Sleeps Tonight(ライブ)

www.youtube.com

今回のお話

今回は、トーケンズ「ライオンは寝ている」の「ライオン」は凶暴な悪者だと思っていたら、本当は、凶暴だけれど、その力で私たちを守ってくれる味方であった、というお話でした。

もっとも、作詞にあたっては、できるだけ生々しい情報は消して、普遍的な歌詞に昇華させようという作詞家の意図が働くので、歌を聞いた聞き手が、その人その時の感受性や、考え方や、気分で、色々な受け取り方をするのは、全く正しい聞き方です。