一音九九楽

一音九九楽

いちおんくくらく★ひとつの音からたくさんの楽しいこと

キングズメン「ルイルイ」の大ヒットは、金髪ボーカルの脱力発音が空耳を呼んだのと、歌い出しを間違ったから。

この曲、聞き始めにいきなり耳に入るボーカルの「ルイルイ」という声が、あまりにもヨレヨレだるだるな歌い方なので、強烈な印象を残します。

曲の良さはもちろんありますが、このボーカルならびに演奏の脱力ぶりがあらぬ誤解を生んだり、歌い出しをミスしたりして、本来はダメダメなはずでした。

ところが、そのマイナス面が返って評判になって大ヒットしたので、その間の事情を探ってみました。

(なお、金髪のボーカル「ジャック・イーリー」は、関ジャニ∞横山くんに似ているような、ウエンツ瑛士さんに似ているような、と思ったのがこの曲を探ってみるきっかけでした。)

「ルイルイ」(映像では、インタビューをはさんで別の曲も入ってます)

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ほとんど「るえるえ」に聞こえる「脱力発声」が、かえって注意を引きます。

歌詞はこちらです。

genius.com

内容としては、ジャマイカの男が出稼ぎに行っていたのでしょうか、帰りの三日三晩の船旅ではいつも彼女のことを考えていた、ようやく帰り着いてデートできそうだ、という歌ですね。

脱力レコーディングの理由

この滑舌の良くない脱力発声には理由があります。

 

レコーディングは1時間

レコーディングは1963年4月6日の午前10時からの1時間のみ。しかもその1時間で「ルイルイ(Louie Louie)」を含めて4曲をレコーディングしてしまおうという強行スケジュール。

さらにバンドは前日の夜に、ハウスバンドとしての仕事場であるクラブハウスで、人気曲「ルイルイ(Louie Louie)」の「90分間マラソン演奏」をやっていて、疲労困憊の状態。

その翌朝なので、ろくな練習は出来ずにぶっつけ本番的なレコーディングだったと思われます。

ひょっとして、まだ前夜のアルコールも残っていたかもしれません。

ぶら下がるマイク

スタジオのマイクは3本で、フロアに立っているマイクスタンド式ではなく、上からぶら下がるタイプ。

ボーカルの「ジャック・イーリー(Jack Ely)」は上にぶら下がっているマイクに向かって、上を向いてそり返って、大声で歌いました。

「他の楽器に負けるもんかと思ったんだ」

言語不明瞭

ジャック・イーリーは、ふだんから滑舌が悪いので有名だったところに加えて、この時、歯列矯正用の金具を歯にはめていたために、さらに言語不明瞭。

なので、この時の彼のボーカルは、言ってみれば、街の不良の、ろれつの回らない酔っ払い「あんちゃん」が、だらしなく気勢を上げているような、妙なリアリティが出たんですね。

2小節ぶん早すぎた歌い出し

脱力しすぎていたからか、ジャック・イーリーはギターの間奏のあとの歌い出しタイミングを間違えて、2小節早く歌いかけて、"Me see"と声を出してしまいます。

すぐに気づいて黙りましたが、間違えた最初の声はそのまま録音されてしまいました。

それを聞いていたドラムの「リン・イーストン」は、直後にちゃんと機転を利かせて、正しい歌い出しのタイミングに誘導をするためのドラミングをしています。

再録音できず

その時、バンドは、もうちょっとちゃんとしたいと再録音を主張しましたが、プロデューサーは、多少の間違いがあっても、この生々しいエネルギーに溢れた感じが唯一無二、とても良い、と判断したらしく、そのままレコード化。

たしかに、その時だけにしか出せない、理屈ではない何か、というものが、この演奏にはありますからね。

大ヒットの理由

その理屈ではない何か、を採用した結果、大ヒットとなりました、、、とも、実は言い切れません。

この曲の大ヒットには、もうひとつの理由があるんですね。

歌詞が違って聞こえる

ボーカル、ジャック・イーリーの滑舌が悪いために歌詞がよく聞き取れず、この曲の歌詞は、表向きは単なるラブソングだけど、聞きようによっては、もっと違う歌詞に聞こえるんだよ、といううわさが若者たちの間に広がりました。当時はインターネットなどないので、口コミですね。

たとえば、"Three nights and days" (三日三晩)というフレーズが、"Each night at ten"(毎晩10時に)と聞こえる、というふうに。

そうやって聞いていくと、曲全体がなかなか「ダーティーな」歌詞に聞こえる、というわけです。

ダーティーな歌詞とクリーンな歌詞

こちらに歌詞を比較した映像があります。

ここに映像を直接貼り付けるとダーティーな歌詞が直接見えてしまうので、リンクだけにしておきます。FBIに捕まりたくはありませんからね。

下の写真、あるいは文字から行けます。

ダーティーな歌詞とクリーンな歌詞

最初に流れるダーティーな歌詞は当時のFBIの資料によるものです。FBIの耳にはこう聞こえた、というわけです。

2番めに流れるのが正当な歌詞です。

さあ、そう思って聞くとそう聞こえるでしょうか。それとも、そう聞くにはやっぱり無理があるでしょうか。

ビートルズでもあった

これは、たとえばビートルズの「ストロベリー・フィールズ・フォーエバー」のエンディングでジョンが「アイベリードポール」(私はポールを埋葬した)と言ってるように聞こえるとうわさが立ったものが、実際には「クランベリーソース」と言っていた、という都市伝説と共通していて、いわゆる「空耳」現象ですね。

放送禁止ワード

このうわさが出るきっかけは、"Three nights and days" の直前にドラムの「リン・イーストン」が間違ってドラムのわくを叩いてしまって叫んだ、「くそっ!」という意味の英語4文字ワードです。もともとは、それ以上の意味はなかったのですね。

ところが、それが憶測を呼ぶきっかけになり、そう思って聞くと、曲全体がダーティーな歌詞に聞こえる、といううわさになって、さあ大騒ぎ。

このうわさはどんどん広がって、とうとう州知事にまで届いてインディアナ州では実際に放送禁止になり、さらには司法省、あげくのはてにFBIの耳に入ります。

そこでFBIも調査に乗り出します。これがまた世間の注目を集めることになります。

ほんとうにそう言ってるのか、という興味でレコードを買った人も多かったんですね。

FBIの捜査官がドアをノック

その事について、このテレビ番組映像での、演奏の合間のインタビューでは、ジャック・イーリーが「おいみんな、ダーティーオールドマン(汚れた大人)が何か聞いてるぜ」とインタビュアーをいじってふざけた後でこう答えていますね。

「部屋で寝ているとノックがあったのでドアを開けると、身なりの良い背の高い紳士が立っていて、身分証を見せた。FBIだ。(ここでインタビュアーもびっくり)...すぐドアを閉めてまた寝た。またノックがあったので開けると、歌詞について、ダーティなのかと聞かれた。なので答えてやったよ。ずっと前からクリーンだったし、今もクリーンだし、これから先もクリーンだよって。」

めでたく無罪放免になりましたが、そんなこともあって、歌いだしのタイミングを間違ったジャック・イーリーの"See me"という声が入ったままのレコードは、あれよあれよという間に売れまくり、キングズメン(Kingsmen)の「ルイルイ(Louie Louie)」は、ビルボード2位、キャッシュボックス1位の大ヒットを達成してしまいました。

 

間違いも毎回再現

当時のテレビは原則「口パク」

一般的に今でもテレビなどで、レコードの音に合わせて演奏するふりをする、歌うふりをする、いわゆる「口パク」は時々ありますが、この当時のテレビでは原則すべて生放送なので、出演者が交代するのに、機材を用意する場所もないし時間もない、という事情から、レコードの音や事前に録音した音に合わせて「ふりをする」「口パク」は当たり前でした。

実はこのテレビ映像も「口パク」です。

映像での、ドラムのリン・イーストンのドラミングをよく見ていると、ドラムのスティックが太鼓やシンバルを実際には叩いていません。

インタビューをはさんだ2曲めでは手拍子の音が聞こえますが、誰も手拍子していません。キーボードが手拍子しようとしてキーボードから手を離しても、キーボードの音がしています。

リン・イーストンは、頭を振って髪を振り乱したりして、アクションは大きいのですが、スティックは宙を叩いてます。時々、勢いあまって本当に叩いてしまうのはご愛嬌ですね。

ビートルズなどでも、「なんだか口パクは恥ずかしいなあ、かっこ悪いなあ」といった感じで、仲間うちで照れ笑いを交わしながら口パク演奏している映像がたくさんあります。

 

間違った声出しも忠実に演技

というわけで、キングズメンも、テレビの番組でもレコードの音に合わせて実際に演奏しているふりをするのですが、困ったことにレコードに入っているレコーディングで間違った時の声も、消しようもなく、そのまま出てしまいます。

ボーカル、「ジャック・イーリー」としても、本人がマイクの前にいないのに声だけ聞こえては、透明人間がいるようで不自然なので、ギターの間奏が終わる前に、わざわざマイクの前まで早めに行ってスタンバイ、「出だしを間違って思わず声を出してしまった」というふりをするパフォーマンスを、毎回しなければなりません。

間違いパフォーマンスがウケる

ところが、このパフォーマンスがまた面白いと、かえって受けたのですね。

実際に本物のライブをするときにも、わざと間違えたタイミングで声を出すようになりました。

 

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こちらは後年になってからの2011年のライブです。


ここで、バンドを抜けた「ジャック・イーリー」の代わりにボーカル担当しているのは、本来は1963年からやはりバンドを抜けた「リン・イーストン」に代わってドラム担当だった「ディック・ピーターソン」。

彼も、オリジナルメンバー「マイク・ミッチェル」によるギター間奏のあと、わざと間違え歌いかけて、びっくりしたふりをして胸に手を当てたりしています。

それを見ている会場も、これは事情を知っているみんなが期待している「お約束」アクションなので、大ウケですね。

滑舌も、わざと悪くしているのが笑えます...(*^^*)

今回のお話

今回は、キングズメン「ルイルイ」の大ヒットの秘密について探ってみました。

いろいろなことがヒットにつながっているのですが、ヒットにつながる色々なことを呼び寄せる、その大きな要因は、むしろこの無駄な力が入っていない「脱力感」なのかも知れません。
ただ、それが、いやというほどの練習に練習を重ねた上での「脱力」であるところに、その秘密があるような気がします。