浜辺美波、吉沢亮さん出演のロッテガーナチョコCM曲
どこかで聞いたメロディーですね。
世代によってはみんな知っている、4人組女声コーラス・グループ「コーデッツ」が歌った「ミスターサンドマン」のメロディーですね。
この時期によく聞かれる「秘密」
なぜ、この時期、「ミスター・サンドマン」がよく聞かれるのでしょう。
その秘密を、ちょっと探ってみました。
この曲には、もともと3種類の歌詞が存在します!
浜辺美波、吉沢亮さん版の曲は、まだ全部は聞けてませんが、もともとの歌詞とは違って、新しく作詞されたようですね。
- 浜辺美波、吉沢亮さん出演のロッテガーナチョコCM曲
- この時期によく聞かれる「秘密」
- コーデッツ版の「ミスター・サンドマン」は当時の大スター「リベラーチ」へのトリビュートソングだった
- 今回のお話
コーデッツ版の「ミスター・サンドマン」は当時の大スター「リベラーチ」へのトリビュートソングだった
「Flash Mob Jazz」の演奏による、バーバーショップスタイルの「Mr.Sandman」
Mr Sandman Live in Brighton by Flash Mob Jazz HDwww.youtube.com
曲の前奏部分を「Flash Mob Jazz」コーラスのそれぞれのメンバーが「ボン」「ボン」「ボン」と「一音」だけ歌うことを繰り返してますね。
その「一音」ずつが、次々につながって行くことによって、分散和音のハーモニーがきれいに生まれるのが、なんとも面白くて「楽」しいですね。
このブログのタイトル「一音九九楽(いちおんくくらく)」に通じるものがあります。一音ずつが集まって、たくさんの楽しいことが起こる、というわけです。
彼らは床屋さんのお店の中で演奏していますが、これにはちゃんとこだわりの由来があります。
バーバーショップ音楽とは
基本的に4人一組、カルテットのアカペラコーラスは「バーバーショップ音楽」と呼ばれているのです。
アメリカの街角での、陽気な理髪師やヒマなお客たちがコーラスしたのが始まりだ、というところから、この「Flash Mob Jazz」の演奏も、実際の床屋さん、バーバーショップでパフォーマンスをしているのですね。
元歌の「コーデッツ」は女の子の立場から
この演奏の元歌は、4人組の女声コーラスグループ「コーデッツ」(Chordettes)のバージョンです。
“Chord”「コード」というのは「ギターコード」の「コード」で、「和音」の意味です。
なので、この「コーデッツ」というグループ名は、日本語で言えば「和音ちゃんたち」みたいなニュアンスでしょうか。
The Chordettes - Mr. Sandmanyoutu.be
歌詞を読んでみると、この曲は基本的に女の子のための曲のように見えますね。具体的には「超イケメンと仲良くなることを夢見る女の子」の歌のようです。
サンドマンは「眠りの妖精」なので、とりあえず、私を眠らせて、夢を見せてくれるようにお願いするのですね。
眠りの砂
妖精「サンドマン」が眠らせるのに使うのは「サンド」つまり「砂」です。妖精が使う砂ですから、魔法の砂ですね。
砂を入れた袋を持っている、というお話もあるので、日本の「大黒様」とか「サンタクロース」みたいでもありますね。
それにしても、西洋の伝承とはいえ、砂を目に入れるというのはユニークな発想だなあ、と思いましたが、私自身が眠くなった時、ちょっと目が乾いたようになりました。
そのときの感覚が、「あ〜、これはたしかに、ものすごく細かい粉のような砂がちょっと目に入った、みたいな感じかもしれない」と、納得できる感覚でした。
妖精が振りまく魔法の砂とマジックビーム
この感覚から、人が眠くなるのは誰かが、例えば妖精が、「目に見えない魔法の砂を目にまいてるのかも〜」という発想が出てきた、という可能性は充分にありますね。
「魔法の砂」と言うよりは「魔法の粉」と言ったほうがロマンチックでしょうか。
あのティンカーベルが振りまく光の粉みたいなキラキラの星のような砂かも知れません。
「星くず」というくらいですから、夜空に無数に輝く星そのものかも知れませんね。
そう思うと一緒に歌われている「マジック・ビーム」とは月の光のことなのかも。
この曲がこの時期によく聞かれる「秘密」の答えは「中秋の名月」
それで、この秋の空気が澄んでくる時期、「中秋の名月」の季節に「ミスター・サンドマン」の曲がCMによく使われるのかもしれません。
子供を寝かしつける時にも
子供は眠くなると目をこすりますね。
そこで、親が「ミスターサンドマンが来たんだね〜、いい夢が見られるよ、おやすみ」とか言って、子供を寝かしつける場面が想像されます。
そして、魔法の光線「マジックビーム」で、一番可愛い男の子と仲良くなる夢を見させてね、という、とてもちゃっかりした歌になっています。
男の子なのに「薔薇のような唇」?
ところで、この曲の歌詞、ちょっと違和感を感じるところがありませんか?
女の子が憧れの男の子に「バラのようなくちびる」を求めるでしょうか。
実はちゃんとその理由がありました。
最初は男性の立場からの歌
この曲の作詞作曲は「パット・バラード(Pat Ballard)」という人ですが、創唱者は「ヴォーン・モンロー(Vaughn Monroe)」という男性歌手です。
彼は自身のオーケストラのバンドマスターだったので、1954年の5月に自身のオーケストラの伴奏でレコードを出しています。
Vaughn Monroe – Mr. Sandmanyoutu.be
この時の歌詞がオリジナルの歌詞、ということになります。
モンロー氏は男性なので、歌詞の中の夢に出てくるのは女性です。
元々のオリジナルの歌詞にある言葉、「桃(のような薄いピンク)とクリームのような(白い)肌」という表現と、「(白い)クローバーの花のような(歯がこぼれる)(赤い)バラの花のようなくちびる」という形容は、むしろ女性のものですから、もともとは男性が女性に憧れる歌だったわけです。
このオリジナル版の歌詞の中には、コーデッツ版に出てくる「道化師(アパラーチ)」も「リベラーチェ」も、どこにも見当たりません。
とてもシンプルかつストレートに、寂しい男の子が眠りの妖精サンドマンに、とびきり可愛い女の子の夢を見させてくれるように、ひたすら訴える歌詞ですね。
コーデッツとフォー・エイセスがカバー
このオリジナル曲は大ヒットしたんですね。そのヒットに便乗しようと、男性コーラスグループ「フォー・エイセス」と女性コーラスグループ「コーデッツ」が 相次いでカバーレコードを出します。
フォー・エイセス版は「バック・トゥ・ザ・フューチャー」でも
「フォー・エイセス」のほうは男声4人のコーラスグループだったので、歌詞もモンローの歌ったオリジナルそのまま、、、ではありません、リズミカルに歌うためにちょっと歌詞を変えていますが、男性が女性に憧れる歌であるという設定は同じです。
この「フォー・エイセス」版は、映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」の中でも聞くことができます。主人公が昔の世界にタイムスリップした場面で、1955年11月5日(映画に出てくる当日の新聞の日付け)当時、流行っていた曲の代表として流れます。
コーデッツもフォーエイセスも大ヒット
コーデッツ版はこの1955年の前年の年末からこの年の年始あたりにビルボード1位を数週独占し続けています。
フォーエイセス版は遅れて、自身最大のヒットでビルボード1位を獲得した「慕情」の主題歌「Love Is a Many Splendored Thing」につられるように、1955年にヒットしています。
youtu.beMr.Sandman(TheFourAces)
オリジナルをちょっと変えてある歌詞はこちらです。
憧れの彼女の肌の色は「クリームとミックスされた桃」と、さらに具体的な描写になっています。
コーデッツ版では歌詞を大工事
ところが、「コーデッツ」のほうは女声4人のグループです。
さあ、男性が女性に憧れる内容の歌詞をどうするのか。
英語の歌では「彼氏」「彼女」を入れ替える
英語の歌では伝統的に、歌詞の中に出てくる「You」は、男性女性の区別はありませんから、そのままで問題ありませんが、男性が歌う場合の「彼女」(She とか her とか)という言葉は、女性が歌う場合には「彼」(He とか him とか)に変えて歌うのが普通でした。もちろん、その反対のケースも同様です。
そこで「コーデッツ」は、女声グループが歌うということで、定石通り、「make her」を「make him」に変えています。
それだけでは終わらない
そして、ここからが大工事ですが、まず「桃とクリームのような肌の色」という言葉はカットしました。
しかしながら、「クローバーの中のバラようなくちびる」という表現、これはそのまま残したのですね。
「roses in clover」つまり、バラの花に例えられる燃えるような赤いくちびると、それとセットになった、クローバー(シロツメ草)の花のように白く輝くきれいに並んでいる歯の描写が残ったわけです。
薔薇のような唇の男性
なぜ、女性が憧れる「男性」のことを描写するのに、この女性的な表現を残したのか。
実は当時、その表現にピッタリの男性が実在したからなのです。
薔薇のような唇と、こぼれるような白い歯の持ち主である男性。
その男性は、当時一世を風靡して、知らない人はいない、というくらい大人気のピアニストだった「リベラーチェ」という人です。
聞いたことがある名前?と思いますが、そうです。
「リベラーチェ」を歌詞に入れてしまった
「コーデッツ」版の歌詞の中に出てくる「リベラーチェ」です。実際の発音としては、その前の行に出てくる「パリアーチ」と韻を踏んでいるので「リベラーチ」ですね。
「リベラーチのようなウェーブのかかった髪」という歌詞のとおりに、「リベラーチ」は強めのウェーブヘアーがトレードマークでした。
ピアニストとして公演をするときのゴージャスな衣装も有名で、女装をすることもあり、当然、唇は薔薇の色です。
このへんの様子は「恋するリベラーチェ」原題"Behind the Candelabra"(枝付き燭台の陰で)という映画にもなっています。恋する相手は男性です。
エンタメ界の大スター「リベラーチ」の影響力は絶大で、「エルヴィス・プレスリー」や「エルトン・ジョン」にも、極端にエリの立ったキンキラのステージ衣装などで影響を与えました。
「グリッサンド」の音も聞きどころ
「リベラーチ」はピアニストとして大人気だったので、「コーデッツ」版では、歌詞の中の「リベラーチ」という彼の名前を歌った直後に、ピアノによるグリッサンド(鍵盤の高い方から低い方へ一息に、「トゥルルルルルルルン!」と勢いよく指をすべらせて音を出す)の音が聞こえますが、これも、派手好きな「リベラーチ」がピアノ演奏でよく使っていた、彼のトレードマークのようなピアノテクニックだったのです。
リベラーチェに対するトリビュートソング
つまり、コーデッツ版はもはや、リベラーチェに対するファンソング、トリビュートソングだと言っても過言ではありません。
ビートルズが一世を風靡した時にも、「私のまわりにビートルズがいるの」といった歌詞の「夢見るビートルズ」というトリビュートソングができて、それも大ヒットした、ということがありました。
考えてみれば、この「夢見るビートルズ」も、ジョンもポールもジョージもリンゴも、憧れのみんなが私のまわりにいて演奏してくれている場面を夢見る、という内容です。
「憧れの人」は、「夢見る」ものなのかも知れません。
そうするとやっぱり、寝る時には「ミスターサンドマン」に、憧れの人に「夢で逢えたら」と、お願いしたくなりますね。
今回のお話
今回は、浜辺美波、吉沢亮さん出演のロッテガーナチョコCM曲「Mr.Sandman」の元歌詞には3つのバージョンがあり、読み比べてみたら、コーデッツ版の歌詞は、当時のピアノスター「リベラーチ」のことを強く意識した歌詞に変えていて、ほとんど彼へのトリビュートソングになっていたことが分かった、というお話でした。
これだけ歌詞を変えてしまうと、著作権とかどうなるんだろうと思いますが、マービン・ゲイ版のように「2つの唇」を「2つの目」にしてしまっているのを聞いたりすると、アメリカではそのへん、かなり自由なのかも、とは思います。