1938年以来続く伝統の、新春恒例、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団による「ニューイヤーコンサート」は新型コロナウィルスの影響で、史上初の無観客の演奏会となりました。
指揮者はリッカルド・ムーティさんです。
無観客でしたが、これはむしろ新しいコンサート時代の幕開けかも知れません。
なぜなら、無観客でも、ちゃんとコンサートとしての機能を果たしていたからです。
その様子を見ていきましょう。
花いっぱいの会場
観客はいませんが、いっぱいの花で飾られた会場で、いつものように陽気で華やかなウィンナ・ワルツが繰り広げられます。
演奏も思い入れたっぷり
ウィンナ・ワルツ独特の三拍子、あっさりしていない、ねばるねばる、もう少しでつんのめりそうになる、ためにためた、濃厚な三拍子が、、(ため)、、気持ち良いですね(#^.^#)
バレエにも新趣向
10数曲の演奏中、バレエダンスの映像が流れる曲があるのですが、今回はダンスにストーリーがあったので、退屈せずに見られました。日本人がダンサーとして出ていたのも意外でした。
女性演奏者が増えた
今まではウィーンフィルでは、圧倒的に男性演奏者優位だったのですが、今回、女性演奏者の姿が目立ちました。時代が変わって行ってるんですね。
そして、アンコールも終わって、、、
アンコールの新形式
そうそう、このアンコールは今回、客席がからっぽなので、世界中の人からの拍手が、インターネットの回線を使って、場内に届いたのです。テレビ画面には、何十という数のそれぞれの、事前に登録していた人たちのたくさんの小さな写真が画面いっぱいにゆらゆらと揺れていて、それとともに、拍手の音が聞こえるので、全世界がつながった感じがして大変感動的でしたね。
演奏家間のコミュニケーション
演奏会本編プログラムの普通の曲では、本来は観客席から万雷の拍手が来るべき場面で、演奏者全員が楽器などで拍手の代わりをしていました。弦楽器は弓で譜面台を軽くたたいていました。
観客の拍手がなくて、とても静かなので、普段は聞こえない、そんな音もよく聞こえます。
ホルンでは楽器をクルリと回している人がいましたが、そのしぐさが拍手の代わりになっているみたいですね。
また、指揮者も含め、演奏者が柔らかい、お互いをいたわるような笑顔なのが印象的でした。
定番のあいさつ
さて、アンコールの曲も終わって、例年、最後から2番めの曲は「美しく青きドナウ」と決まっています。
しかも、最初の部分をちょっとだけ演奏したところで、観客が拍手をし始め、指揮者が何かを思い出したように演奏を中断、楽団全員で観客に向かって「あけましておめでとう」のご挨拶を言ってから、改めて演奏を始める、というところまで、お約束の慣習として決められた手順になっているのです。
が、今回は観客がいないので、「美しく青きドナウ」の演奏に入る前に、指揮者リッカルド・ムーティさんが、ちゃんとマイクを手に取って、全世界で中継を見ている人達に向かって、新年のご挨拶をしました。英語でしたが、最後にイタリア語での「グラーチェ」が印象的でした。
★こちらはリッカルド・ムーティさんスピーチの様子です。
★リッカルド・ムーティさんのスピーチ、訳文はこちらで見られます。
定番の観客手拍子の指揮
古くからの慣習
で、本当に最後の曲目も、毎年決まっています。「ラデツキー行進曲」。
「ニューイヤーコンサート」での初演は1946年1月1日です。
そして、これも毎年の決まりごとですが、この曲の演奏の途中で、観客が手拍子を取ることを認められている、と言うか、それが慣例になっています。
ボスコフスキーが指揮をとっていた期間が25年に及ぶのですが、彼が始めた慣習です。
指揮者がわざわざ観客席に向かって振り返り、観客に対して手拍子のやり方の指揮を取るのです。
手拍子は盛り上がる
まあ、手拍子の指揮と言っても、要するに手拍子の音を「強く大きく」するか「弱く小さく」するかの違いだけなのですけどね。
それでも、観客としては演奏に参加している気分満点になります。皆さん、楽しそうです。なんたって、ウィーンフィルと共演できるなんて、めったに出来ることではありません。
今回の手拍子
それが今回は観客がいないので、指揮者はどうするかな、と見ていましたが、ムーティさん、やはり身体の左から振り返りそうになりながらも振り返り切らずに、振り返る途中で目に入った、という体で、その位置にいたバイオリンパートに向かって、腰を低く低くかがめるように指揮をしていましたね。
私としては、誰もいない観客席に向かって、つまり、全世界の、テレビを通じて見ている人たちの手拍子の指揮を取ったら、もっと良かったな〜と思いました。
そうしたら、私を含めて、全世界でテレビを見てた人たちが、テレビの前で手拍子を打てたかも知れません。
なお、この「ラデツキー行進曲」での手拍子が、そもそも始まった「由来」については、こちらの記事に書きましたので、よろしければご覧ください。
まとめ
今回は史上初の、無観客のニューイヤーコンサートとなってしまったわけですが、そうなった時に、ちょうどテクノロジーも発展して来ていて、全世界の人たちとつながる事ができて、世界中の人たちに聞いてもらえる、SNSに代表されるネットワークが出来ていた、というのは不思議な時代とタイミングのめぐり合わせだと思います。
これを機会に、伝統を受け継ぎながらも、新しい発想のコンサートの形態が出来て来ることを期待したいと思います。
その意味で、この無観客「ニューイヤーコンサート」が、コンサートの新しい形式に移行する幕開けになったのではないかと思うわけです。