- カーラジオで聞いた「YMCA」
- 「ヤングマン・YOUNG MAN(Y.M.C.A)」西城秀樹
- そもそもY.M.C.A.って何?
- ヴィレッジ・ピープルの「Y.M.C.A.」は、ゲイ・ピープルへの応援歌だった?
- 歌詞が「ダブル・ミーニング」になっている
- 「男っぽい」職業のコスプレ
- Village People「YMCA」歌詞と日本語訳
- 今回のお話
カーラジオで聞いた「YMCA」
「西城秀樹(さいじょうひでき)」が歌った「ヤングマン・YMCA」は、23歳の西城秀樹が1978年の晩秋にアメリカに行った際、車で移動途中にカーラジオから流れるオリジナル「ヴィレッジ・ピープル」が歌う「YMCA」を聞いて衝撃を受け、これは自分が歌いたい、と直感したのが始まりでした。
帰国後、この曲をコンサートで歌ったところ大受けしたので、レコード化されてリリース、結果として日本でも大ヒットとなったのです。
調べてみると、その元歌「ヴィレッジ・ピープル」が歌う「YMCA」という曲は、もともとの成り立ちは、「ゲイ」の人々への応援歌だったんですね。
当時の西城秀樹はそんな背景は知らず、というより、多分そんな背景もひっくるめて、ひたすら明るい「青春応援歌」として、日本で歌っていました。
「ヤングマン・YOUNG MAN(Y.M.C.A)」西城秀樹
こちらは西城秀樹のヒット曲「ヤングマン・YMCA」です。
「ヤングマン・YOUNG MAN(Y.M.C.A)」西城秀樹
さらにこちらは「夜のヒットスタジオ」版の「ヤングマン」です。
撮影用のクレーンに乗ってますね。
ヤングマン西城秀樹
そして、日本語歌詞はこちらです。
「ヤングマン・YOUNG MAN(Y.M.C.A)」西城秀樹、日本語歌詞
1)
ヤングマン さあ立ち上がれよ
ヤングマン 今翔びだそうぜ
ヤングマン もう悩む事は ないんだからヤングマン ほら見えるだろう
ヤングマン 君の行く先に
ヤングマン 楽しめる事があるんだからhi-
【繰り返し】
すばらしい Y.M.C.A. Y.M.C.A.
ゆううつなど 吹き飛ばして
君も元気だせよ
そうさ Y.M.C.A. Y.M.C.A.
若いうちはやりたいこと
何でもできるのさoh-
2)
ヤングマン 聞こえているかい
ヤングマン 俺の言うことが
ヤングマン プライドを捨てて すぐに行こうぜヤングマン 夢があるならば
ヤングマン とまどうことなど
ヤングマン ないはずじゃないか オレと行こうhi-
【繰り返し】
すばらしい Y.M.C.A. Y.M.C.A.
ゆううつなど 吹き飛ばして
君も元気だせよ そうさ
Y.M.C.A. Y.M.C.A.
若いうちはやりたいこと
何でもできるのさ
3)
ヤングマン 青春の日々は
ヤングマン 二度とこないから
ヤングマン 思い出になると思わないかヤングマン ほら両手あげて
ヤングマン 足ふみならして
ヤングマン 今思う事をやって行こうhi-
【繰り返し】
すばらしい Y.M.C.A. Y.M.C.A.
ゆううつなど 吹き飛ばして
君も元気だせよそうさ Y.M.C.A. Y.M.C.A.
若いうちはやりたいこと何でもできるのさhi-
Y.(Y) M.(M) C.(C) A.(A)
Y.(Y) M.(M) C.(C) A.(A)a one, a two
a one, two, three, four
【繰り返し】
Y.M.C.A. Y.M.C.A.
ゆううつなど 吹き飛ばして
君も元気だせよ
そうさ Y.M.C.A. Y.M.C.A.
若いうちはやりたいこと
何でもできるのさ
ヤングマン!
訳詩:あまがいりゅうじ(天下井隆二)
訳詩の「あまがい」さんは、西城秀樹のマネージャーです。
この曲を訳詞をすることになった成り行きをお話しになってます。
天下井 そう。最初は原曲のまま英語で歌うつもりでしたが、振り付けが完成するとスタッフの間で非常に評判が良くて、急遽、日本語の詞を付けることになったんです。でも、プロの作詞家に頼む時間はなかった。
それで上司から「お前、大学出ているんだから書けるだろう」と言われて、私が訳詞をすることになったのです。それまでも何度か作詞の経験はあったのですが、さすがに焦りましたね。
とにかく時間がなかったので、スタジオの屋上で、1時間で書き上げました。最初の「さあ立ちあがれよ」が出るまでは苦労しましたが、そのあとは一気に書けました。
「Y.M.C.A.」という歌詞を歌う際の、その「Y.M.C.A.」のアルファベットを順番にひとつずつ両手で表現する、という振り付けアクションは、日本版である西城秀樹の方が、本家オリジナルの「ヴィレッジピープル」より先で、「ヴィレッジピープル」が来日した際に、西城秀樹バージョンの「Y.M.C.A.」アクションを見て、自分たちも取り入れた、という経緯らしいですね。
そもそもY.M.C.A.って何?
「Y.M.C.A.」とは、「Young Men's Christian Association(ヤング・メンズ・クリスチャン・アソシエーション)」の略です。
直訳すると「若い男たちのためのキリスト教の協会」ですが、正式名称は「キリスト教青年会」。
1844年にイギリス、ロンドンで、20歳代前半の、それぞれ宗派の違うキリスト教系の12人の青年たちによって結成されました。
元々は店などで働く若い従業員たちが、仕事の合間の空いた時間に開いていた、聖書の購読会でした。
当時、彼らの同世代である若者たちが過酷な労働によって、肉体的にも道徳的にも健康とは言えない状態になってしまい、荒廃していたので、そんな若者たちの日常生活の改善、精神生活の改善を願って、健全なリクリエーションの場を提供する、という意図で組織されました。
この運動に賛同して、のちに国際赤十字を設立して第一回ノーベル平和賞を受賞することになる「アンリ・デュナン」が事務局長としてジュネーヴY.M.C.A.を設立。
1855年にはパリで初めての世界Y.M.C.A.大会を開いて、「世界Y.M.C.A.同盟」を結成しました。
ドイツでは、職を求めて移動する若者たちのために、安価で泊まれる宿泊施設が作られました。
その宿泊施設が発展して、図書室や、プールやジムなどのスポーツ施設も併設されて行ったんですね。
これがアメリカにも波及して行ったわけです。
「バスケットボール」も「バレーボール」も、YMCAが起源
意外な事ですが、アメリカのYMCAでは野外キャンプや体育活動も発展して、1891年にはY.M.C.A.の体育教師によって何と、ゲームとしてのバスケットボールが考案されたのでした。
さらに、そのバスケットボールに続いて1895年には、バレーボールもY.M.C.A.所属の別の体育教師によって、バレーボールという競技自体が作られたのです。
日本では1880年(明治13年)に東京Y.M.C.A.が設立され、「キリスト教青年会」と訳されましたが、ヤングマン=「青年」という訳語も、東京Y.M.C.A.が発祥とされています。
というわけで、アメリカでは「ヴィレッジ・ピープル」の時代にはY.M.C.A.と言えばプールやジム付の宿泊施設、として知られてはいたのですが、もう一つの側面でも知られるようになっていました。
当時のY.M.C.A.の宿泊施設には、ユースホステルのように相部屋があったので、「若い男たちの宿泊施設」ということから発展して、ゲイの人たちの社交場としても知られていたんですね。
なので、「Y.M.C.A.」と言うと、当時、ゲイ・ピープルを意味する隠語ともなっていました。
ヴィレッジ・ピープルの「Y.M.C.A.」は、ゲイ・ピープルへの応援歌だった?
アメリカ大統領選などでトランプ氏がその集会でこの曲をよく流しているので、耳にされた方も多いと思います。
トランプ氏は「多様性」の代表格のような「ゲイ・ピープル」とは対極にありそうな立場だと思われますが、この曲を気に入っているのは、その歌詞にからくりがあります。
歌詞が「ダブル・ミーニング」になっている
歌詞は後ほどご紹介しますが、こちらは、そのオリジナルの「ヴィレッジピープル」メンバーによる1978年のパフォーマンスです。
Village People - YMCA (OFFICIAL Music Video 1978)
このミュージックビデオで彼らが踊っている背景に映っている「YMCA」は、ニューヨーク市マンハッタン区、ウェスト23丁目213番地にあった「マクバーニーYMCA」です。アメリカYMCAが最初に手がけた施設でもあります。
「男っぽい」職業のコスプレ
「ヴィレッジ・ピープル」のメンバーは6人。
この映像の中では全員、社会のいろいろな立場や職業の人たちの「コスプレ」をしています。
よく見ると、それぞれに共通するものが分かります。そうです。「男っぽさ」です。
当時のアメリカのゲイバーではゲイにモテる「男っぽい」職業タイプのコスプレをすることが流行っていたのです。そして、メンバーは「ネイティブ・アメリカン」以外、全員ヒゲ面なのにご注目。
ヒゲも「男っぽさ」を表すのに有効なファッションアイテムなのです。
メンバーのうち4人が「ゲイ・ピープル」
まず、グループの前で歌っているメインボーカルは、
1)警官:「ヴィクター・ウィリス(Victor Willis)」、彼はこの曲の作詞者でもあります。また、いまだに他のメンバーを替えたグループのリーダーをやってますね。
バックのダンスおよびコーラス担当の面々は、向かって左から、
2)カウボーイ:ランディー・ジョーンズ(Randy Jones)
3)建設作業員:デヴィッド・ホド (David Hodo)
4)ネイティブ・アメリカン:フェリペ・ローズ(Felipe Rose)
5)バイク乗り(ハードゲイ):グレン・ヒューズ(Glenn Hughes)
6)GI(米軍兵士):アレックス・ブリリー(Alex Briley)
私は、バイク乗り(ハードゲイ)の人の動きがキビッ、キビッと切れが良いので好きなのですが、確かにどの職業も「男っぽい」職業ではあります。
メンバーが揃うまでのストーリー
自身がゲイであるフランス人音楽プロデューサー「ジャック・モリリ」と「アンリ・ベロロ」が、フランスでの成功の勢いそのままに、アメリカに渡ります。
「ジャック・モリリ」が、ニューヨーク、マンハッタンの西側「グリニッジ・ヴィレッジ(「ヴィレッジ・ピープル」の名前の由来でもある)」地区にあるゲイバーでの「仮装舞踏会」で「ヴィレッジピープル」のアイディアが閃(ひらめ)いて、ネイティブアメリカンのコスチュームで踊っていたダンサーの「フェリペ・ローズ」をスカウト。
さらに、すでにミュージカルなどで活躍していた、警官役の「ヴィクター・ウィリス」とその友人のGI役「アレックス・ブリリー」を招集。
残り3人は、ゲイ雑誌に「ゲイのダンサーで、ヒゲでマッチョな外見の人求む」という広告を出して集めました。
なので、メンバーのうち4人は本物の「ゲイ・ピープル」なんですね。
Village People「YMCA」歌詞と日本語訳
そして、歌詞。
巧みに、「ゲイ・ピープル」向け、「一般ピープル」向け、どちらにも解釈できる「ダブルミーニング」的表現を使っています。
作詞のウィリスはこの曲について、「ゲイの曲だと思ったことはないね、単なるYMCAの歌さ」と、とぼけているようですが。
Village People「YMCA」歌詞と日本語訳
【1番】
Young man, there's no need to feel down
若者よ、落ち込む必要はないんだ
I said, young man, pick yourself off the ground
言ったろう?若者よ、這いつくばってないで立ち上がるんだ
I said, young man, 'cause you're in a new town
言ったろう?若者よ、なぜなら君は新しい街に来たんだから
There's no need to be unhappy
アンハッピーでいる必要なんて全くないよ
Young man, there's a place you can go
若者よ、君の行く居場所はあるよ
I said, young man, when you're short on your dough
言ったろう? 若者よ、お金がない時にも
You can stay there and I'm sure you will find
君はそこに泊まれるし、僕は保証するよ、君は見つけるだろう
Many ways to have a good time
たくさんの素敵な時間の過ごし方をね
【コーラス】
It's fun to stay at the Y.M.C.A.
楽しいぜ、Y.M.C.A.に泊まるのは
It's fun to stay at the Y.M.C.A.
楽しいぜ、Y.M.C.A.で過ごすのは
They have everything
そこには何でもあるんだ
For young men to enjoy
若い男たち向けの楽しめるものがね
You can hang out with all the boys
君は一緒に過ごすことが出来る、そこにいる全ての男の子たちとね
【コーラス】
It's fun to stay at the Y.M.C.A.
楽しいぜ、Y.M.C.A.に泊まるのは
It's fun to stay at the Y.M.C.A.
楽しいぜ、Y.M.C.A.で過ごすのは
You can get yourself clean
君は体も洗ってきれいに出来るし
You can have a good meal
君は美味しい食事も食べられる
You can do whatever you feel
君は何でもする事が出来る、感じるままにね
【2番】
Young man, are you listening to me?
若者よ、僕の言う事を聞いてるかい?
I said, young man, what do you want to be?
言ったろう? 若者よ、君は何になりたいんだ?
I said, young man, you can make real your dreams
言ったろう? 若者よ、君も夢を現実にできるんだよ
But you've got to know this one thing
でも君はこの一つの事だけは知っておかなくちゃだよ
No man, does it all by himself
誰も、それを一人だけではやれないんだ
I said, young man, put your pride on the shelf
言ったろう? 若者よ、プライドは棚に置いとけよ
And just go there, to the Y.M.C.A.
そして、とにかく行くんだ、Y.M.C.A.にさ
I'm sure they can help you today
僕が保証するよ、彼らは君を救うのさ、今日さ
【コーラス】
It's fun to stay at the Y.M.C.A.
楽しいぜ、Y.M.C.A.に泊まるのは
It's fun to stay at the Y.M.C.A.
楽しいぜ、Y.M.C.A.で過ごすのは
They have everything
そこには何でもあるんだ
For young men to enjoy
若い男たち向けの楽しめるものがね
You can hang out with all the boys
君は付き合うことが出来る、そこにいる全ての男の子たちとね
【コーラス】
It's fun to stay at the Y.M.C.A.
楽しいぜ、Y.M.C.A.に泊まるのは
It's fun to stay at the Y.M.C.A.
楽しいぜ、Y.M.C.A.で過ごすのは
You can get yourself clean
君は体も洗ってきれいに出来るし
You can have a good meal
君は美味しい食事も食べられる
You can do whatever you feel
君は何でも出来る、感じるままにね
【3番】
Young man, I was once in your shoes
若者よ、僕もかつては君と同じ立場だった、
I said, I was down and out with the blues
僕も落ち込んで疎外されてた、ブルーな気分でね
I felt, no man cared if I were alive
僕は思ったよ、誰も僕が生きていようが、気にもしていないんだとね
I felt the whole world was so jive
僕は思ったよ、世の中インチキだってね
That's when someone came up to me
そんな時に、誰かが来たんだ、僕のところに
And said, young man, take a walk up the street
そして言ったよ、「若者よ、この道をずっと前の方に歩いて行け」とね
There's a place there called the Y.M.C.A.
そしたらそこはY.M.C.A.と呼ばれるところだった
They can't stop you back on your way
彼らは君の進む道を邪魔なんかしない
【コーラス】
It's fun to stay at the Y.M.C.A.
楽しいぜ、Y.M.C.A.に泊まるのは
It's fun to stay at the Y.M.C.A.
楽しいぜ、Y.M.C.A.で過ごすのは
They have everything
そこには何でもあるんだ
For young men to enjoy
若い男たち向けの楽しめるものがね
You can hang out with all the boys
君は一緒に過ごすことが出来る、そこにいる全ての男の子たちとね
【コーラス】
Y.M.C.A.
Y.M.C.A.It's fun to stay at the Y.M.C.A.
楽しいぜ、Y.M.C.A.に泊まるのは
Young man, young man, there's no need to feel down
若者よ、若者よ、落ち込む必要はないんだ
Young man, young man, pick yourself off the ground
若者よ、若者よ、這いつくばってないで立ち上がるんだ
【コーラス】
Y.M.C.A.
Y.M.C.A.And just go there, to the Y.M.C.A.
そして、とにかくそこ行くんだ、Y.M.C.A.にさ
Young man, young man
若者よ、若者よ、
I was once in your shoes
僕もかつては君と同じ立場だった、
Young man, young man
若者よ、若者よ
I was down and out with the blues
僕も落ち込んで疎外されてた、ブルーな気分でねY.M.C.A......
Y.M.C.A........
Songwriters:
music:Jacques Morali(ジャック・モラリ),
lyric:Henri Belolo(アンリ・ベロロ), Victor Edward Willis(ヴィクター・エドワード・ウィリス)
と、歌詞を読んでみると、「ヤングマン」の「マン」は広い意味では男女ひっくるめた「人類」を表しますが、狭い意味では「男性」。
つまりこの曲は、「人類」に対する応援歌であると同時に、特に「ヤング・マン」=「若い男」に対する応援歌、とも解釈できるんですね。
そこが「男社会」を志向しているように見えるトランプ氏の精神と合致したのでしょうか。
今回のお話
今回は、もともとはゲイ・ピープルに対しての応援歌だった「YMCA」が、ダブルミーニングな歌詞だったので、万人に対しての応援歌として受け入れられるようになった、というお話でした。
この曲のヒットの数年前まで活躍していたあの「ビートルズ」が、ダブルミーニングな歌詞を多用していたので、その影響を受けた可能性もあるような気もします。
ヴィレッジ・ピープルのグループリーダーは当初はトランプ氏の集会にこの曲を使われることについて否定的でしたが、「話題になったおかげで、また曲が売れ出したよ、そういう意味では感謝してる」と態度を変えて、集会にも出演するようになりましたね。