一音九九楽

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いちおんくくらく★ひとつの音からたくさんの楽しいこと

「俺は村中で一番♪」の「洒落男(しゃれおとこ)」全歌詞を読む・元歌はアメリカのコミックソング

 

「俺は村中で一番、モボだと言われた男」

このフレーズで知られる曲「洒落男(しゃれおとこ)」の元歌はアメリカのカントリーで、日本でも1929年に発売されてヒット。

このヒットを受けて、日本では坂井透(さかいとおる)の訳詩で、浅草の劇場で、二村定一(ふたむらていいち)と榎本健一(えのもとけんいち)の掛け合いで歌われて大ヒット。

そして最初にレコードを出したのは二村定一(ふたむらていいち)。

日本ビクターから公称で1930年1月、実際には1929年11月に発売されました。

歌詞の中の「モボ」とは「モダンボーイ」の略で、当時の流行やファッションの最先端を行く若い男性の事です。女性は「モダンガール」略して「モガ」。

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/f/fb/Kagayama_mogas.jpg

銀座の「モダンガール」wikiより

二村定一「洒落男」

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エノケンこと榎本健一のレコードは、戦後になってから発売されました。

榎本健一「洒落男」

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二村定一・榎本健一「洒落男」歌詞

作詞:Lou Klein、作曲:Frank Crumit
日本語詞:坂井透、唄:二村定一/榎本健一

「エノケン」こと榎本健一版は、オリジナルの二村定一版とはちょっと歌詞を変えて歌っています。変えた部分を茶色で表しました。

1)

俺は村中で一番
モボだと言われた男
己惚れのぼせて得意顔
東京は銀座へと来た

 

2)

そもそもその時のスタイル
青シャツに真っ赤なネクタイ
山高シャッポにロイド眼鏡
ダブダブなセーラーのズボン

 

3)

吾輩の見染めた彼女
黒い瞳でボップヘアー
背が低くて(背は低いが)肉体美 
おまけに足までが太い

 

4)

馴れ染めの始めはカフェー
この家は私の店よ
カクテルにウィスキーどちらにしましょう
遠慮するなんて水臭いわ

 

5)

言われるままに二、三杯(一杯)
笑顔につられてもう一杯
彼女(おんな)は(かのじょも)ほんのり桜色
エッヘッヘしめたぞもう一杯

 

6)

君は知っているかい僕の
親父は地主で村長
村長は金持ちでせがれの僕は
独身でいまだに一人

 

7)

アラマアそれは素敵
名誉とお金があるなら
たとえ男が(は)まずくても
私はあなたが好きよ

 

8)

おおいとしのものよ
俺の体はふるえる
お前とならばどこまでも
死んでも離れはせぬ

 

9)

夢かうつつかそのとき
飛び込んだ女の亭主
ものもいわずに拳固の嵐
なぐられた(て)吾輩は気絶

 

10)

財布も時計もとられ
大事な女はいない
恐いところは東京の銀座
泣くに泣かれぬモボ

3)番の歌詞の「ボップヘアー」は、現在のヘアースタイル「ボブ」いわゆる「おかっぱ」のことですね。

坂井透「村の洒落男」

追って、1930年には日本語訳詞をした坂井透(さかいとおる)も自身で歌って、レコードをコロンビア・レコードから出しますが、その際、版権の都合上、新たにビクター版とは違う訳詞をしました。

坂井透は当時、慶應義塾大学の学生で、大学のジャズバンドでバンジョーを担当していました。

二村定一版のレコードラベルには、演奏が「アーネスト・カアイ・ジャズ・バンド」と書いてあるのですが、このバンドのメンバーはほぼ坂井透の所属していた慶應義塾大学のジャズバンドそのもので、坂井透もレコーディングの際に、メインのウクレレで演奏に参加しているそうです。

こちらは坂井透が歌う「村の洒落男」1930年 、演奏は「コロムビア・ジャズバンド」

A Gay Caballero (Frank Crumit:music) 村の洒落男
Tohru Sakai 坂井透独唱1930年 コロムビアジャズバンド

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坂井透「村の洒落男」歌詞

作詞:Lou Klein 作曲:Frank Crumit
日本語詞:坂井透、唄:坂井透

1)

オラは村中で一番 

シャンだと言われた男

自惚れてのぼせて鏡見て 

江戸は銀座へと来た

 

2)

青シャツに真っ赤なネクタイ 

エナメル靴にメガネ

山高(やまたか)のせて気取る姿 

今流行りのマネキンボーイ

 

(間奏)

3)

会った最初はカフエ 

女性と酒とタバコ

飲んだ酒はいやに甘く 

冷たくて値段は5円だ

 

4)

人の真似して2、3杯 

注(つ)がれるままに5、6杯

女の子はほんのりリンゴ 

俺のツラはまるでオコゼ

 

(間奏)

5)

私はあなたが好きよ 

勇ましく親切ね

楽天的で芸術的よ 

その上まるで紳士だわ

 

6)

お前を忘りゃりょか 

身体をよじうっとりと

けれど彼女は、鯨のような

いびきをかき夢の国

 

(間奏)

7)

たちまち起こる剣劇 

飛び込む女の親父

俺の頭はゲンコの嵐 

あとは知らねえ南無阿弥陀仏

 

8)

今は哀れな男 

破れた衣に心

人の世はいたわりながら

故郷へ戻るというあなた

歌詞は私の聞き取りなので、間違いがあるかもしれません。ご指摘いただければ幸いです。

なお、1)番に出て来る「シャン」は、ドイツ語「 schön 」(美しい)から来ていて「美男・美女」のことです。

この言葉は明治時代、当初は学生言葉だったのが大正時代には一般にも広まり、この曲が作られた昭和初期には流行語になっていました。

「マネキンボーイ」も、当時の流行語だったようですね。今で言えば「ギャル」「イケメン」みたいなものでしょうか。

元歌「A Gay Caballero」

そして、こちらが、そもそもの元歌である「A Gay Caballero(ア・ゲイ・カバレロ=陽気な紳士、愉快な騎士)」。

作曲して歌ったのはボードビリアンであり、ラジオの司会者もこなしたFrank Crumit(フランク・クルミット)。

作詞は、当時コミカルで風刺的な作風で知られたソングライターLou Klein(ルー・クライン)です。

「Gay(ゲイ)」は現在の英語では「同性愛者」の意味の方が大きいですが、この当時は「陽気な」「愉快な」「華やかな」といった意味の方が大きかったようですね。

スペイン語である「Caballero(カバレロ)」には「紳士」という意味の他にも、馬に乗る「騎士」という意味もあることから、「カウボーイ」的なニュアンスも入っています。

そもそも曲のタイトルからして、Gayという英語と Caballeroというスペイン語の「混合」なので、スペイン語あるいはポルトガル語などのラテン系の怪しげな訛(なま)りの英語で歌われるコミックソング、といった立ち位置の曲です。

南米の国から、女性にモテて求婚するためにアメリカにやってきた、髪型もファッションも彼なりに決めてきた陽気な紳士が、ある女性と良い仲になったものの、その亭主からひどい目に会わされて夢破れ、すごすごと国に帰る、という内容です。

坂井透の日本語歌詞は原詞にわりと忠実だということが分かりますね。

Frank Crumit「A Gay Caballero」 

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そしてこちらが原歌詞ですが、「bull(ブル=牛)」に「o」が付いて「bull-o(ブロ)」となっていたり、「meat(ミート=肉付きが良い)」に「a」が付いて「meat-a(ミータ)」になっていたりするのは、アルゼンチンやブラジルなどのラテン系の国の訛(なま)りらしく聞こえるように、わざと余計な母音を付けているんですね。

Frank Crumit「A Gay Caballero」 歌詞

作詞:Lou Klein
作曲:Frank Crumit

1)

I am a gay caballero
俺は陽気な紳士

Coming from Rio Janeiro
リオ(デ)ジャネイロから来たところさ

With nice oily hair
テカテカに固めたイケてるヘアースタイル

And full of hot air
そしてムンムンのセクシーさ

I'm an expert at shooting the bull-o!
俺は牛撃ちのエキスパートなんだぜ

 

2)

I'm seeking a fair senorita
俺は素敵なセニョリータ(未婚女性)を探しているのさ

Not thin and yet not too much meat-a!
やせてなくて、とは言っても、肉付きも良すぎないのがいいぜ

I'll woo her a while
そんな彼女にはすぐに求婚しちゃうよ

In my Argentine style
俺のアルゼンチンスタイルでね

I'll carry her off of her feet-a!
お姫様抱っこしちゃうぜ

 

(間奏)

3)

I'll tell her I'm of the nobili-o
彼女に言うのさ、俺は貴族階級だぜって

And live in the great big castilli-o
そして、立派な大きなお城に住んでいるんだぜって

I must have a miss
俺は絶対手に入れるんだ、お嬢さんをね

Who long for a kiss;
その人はキスを待ち望んでいるのさ

She'll not say "Oh don't be so silly-o!"
彼女は言わないだろうぜ、「そんなバカな!」なんてことはね

 

4)

'Twas at a swell cabaret-ta
そこは最高のキャバレーだったぜ

While wining and dining I met her
ワインを飲んで食事をしている時に俺は彼女に会ったのさ

We drank one or two
俺たちは1杯か2杯飲んだよ

As other folks do;
みんながするみたいにね

The night was wet but she got wetter!
その夜は雨でウエットだったけど、彼女はもっとウエットになったのさ

 

(間奏)

5)

She told me her name was Estrella
彼女は俺に言ったよ、彼女の名前は「星(スター)」だって

She said "Stick around me young fella!"
彼女は言うんだ「私のそばにいてよ、ヤングボーイ!」

"Mosquitoes they bite
「あたしゃ蚊に食われるんだよ

And they're awful tonight
そして今夜は蚊が恐ろしいほどの大量発生だよ

And you smell just like citronella!"
そこへ来て、あんたは蚊よけのレモングラスの匂いがするんだな〜!」

 

6)

Oh I can't forget that senora;
おお、俺はあのセニョーラ(既婚女性)が忘れられなくなった

While telling her how I adore her
俺が彼女をどんなに敬愛しているかを言っているうちに

Asleep she did fall
彼女は眠りに落ちてしまったんだよ

Didn't mind that at all
だから全く気にしていない

But she was a terrible snorer!
彼女がすさまじいイビキをかく人だということが分かってもね

 

(間奏)

7)

She was a dancer and singer
彼女はダンサーでシンガーだった

At me she kept pointing her finger
俺のことを彼女はずっと指差したままで

And saying to me
そして俺に言うんだぜ

"Si senor, si si!"
「そうよ、セニョール(男性への呼びかけ)、そうよ、そうよ!」

But I couldn't see a durn thing-a!
だけど、俺にはそれが何のことやら、さっぱり分からなかったぜ

 

8)

She told me that she was so lonely
彼女は俺に、彼女はとても寂しいと言うんだ

So I climbed up-on her balcony
だから俺は彼女のバルコニーによじ登ったのさ

While under her spell
すっかり彼女の虜になっている時に

I heard someone yell
俺は聞いたぜ、誰かが叫ぶのを

"Get away from here you big baloney!"
「ここから出て行きやがれ大馬鹿野郎」

 

(間奏)

9)

I swore I'd win this senorita
俺は誓った、このセニョリータを勝ち取ることを

I wooed her upon the soffit-a
俺は彼女に求婚したんだ、屋根裏部屋でだぜ

Then her husband walked in
そしたら彼女の夫が入って来た

What he did was a sin
彼のやったことは犯罪だ

I can still hear the birds sing "tweet-tweet-a!"
俺にはいまだに小鳥達がピーチパーチク歌っているのが聞こえるんだぜ

 

10)

Now I am a sad caballero
さて今は俺は悲しい紳士

Returning to Rio Janeiro
帰っているところなのさ、リオ(デ)ジャネイロにな

Minus my hair
俺の髪の毛は抜かれて

A bruise here and there
あざがこっちにもあっちにも

For her husband, he chewed off my ear-o!
彼女の亭主のせいだ、ヤツは噛み切ったんだ、俺の耳をだぜ

伴奏にカスタネットの音が聞こえてますね。フラメンコ気分です。

(原曲続編)フランク・クルミット「帰って来た洒落男」

フランク・クルミット、なんと、この曲の続編、後日談としての第2弾「The Return of the Gay Caballero(ザ・リターン・オブ・ザ・ゲイ・カバレロ)」のレコードも出してます。

THE RETURN OF THE GAY CABALLERO by Frank Crumit 1929

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Frank Crumit「The Return of the Gay Caballero」 Lyrics

作詞:Lou Klein
作曲:Frank Crumit

1)
I am a gay caballero
俺は陽気な紳士

I'm back again from Janeiro
俺はまた戻ってきたぜ、(リオデ)ジャネイロから

And you bet your life
そしてだなあ、命を賭けても良いくらいに絶対に、だぜ

I'll be dodging the wife
俺は避けるぞ、あのワイフと

And the husband who chewed off my ear-o
そしてその亭主をな、俺の耳を噛み切ったヤツだぜ

 

2)

While coming here on the steamer
さて、ここに来るには蒸気船を使ったんだが、その間に

I met a beautiful dreamer
ビューティフルドリーマーに会っちまったのさ

Each kiss that I got
俺が彼女にキスされるたびに

Her lipstick left a spot
彼女の口紅がその跡を残すのさ

And the captain thought I had eczema
それで船長は俺が湿疹持ちだと思ったんだな

 

(間奏)

3)
Last night I strolled on the plaza
昨日の夜、俺は広場をブラブラ散歩してた

The music was playing some Jazz-a
音楽が演奏されてたんだ ジャズか何かだぜ

Then I heard a noise
その時、俺は聞いたのさ、物音を

'Twas made by some boys
それは何人かの男の子たちからだった

My gosh I was getting the leather
なんてこった、俺は革のボールを食らってたぜ

 

4)

Then I met a sweet bambolina
そこで俺は会ったのさ、スイートなカワイ子ちゃんにだぜ

I told her I owned a casin-a
俺は彼女に言ったのさ、俺はカジノのオーナーだぜ

Would she lеave home that night
その日の夜に家から彼女が出て来られるか聞いた

She said that shе might
彼女は出て来られるだろうと言った

For poker but not for casin-a
ポーカーをやりにね、カジノにじゃなくてだぜ

 

(間奏)

5)
She said for a job she was wishing
彼女は言ったんだ、彼女が欲しいと思っているのは仕事だと

For she lost hers at some exhibition
というのも、彼女がエキシビションの仕事を失ったから

I said "I'm a nice chap
俺は言ったよ「俺はいいヤツなんだ

Just sit on my lap
俺のひざに座ってよ

You can't find a better position"
これ以上の良いポジションはないぜ」

 

6)

I told her that she was so simple
俺は言ったよ彼女に、彼女はとても素直だって、

And she had a cute little dimple
そして彼女にはキュートで小さなえくぼがあるってね

Then she said to me
そしたら彼女は俺に言うんだ

"That you dimple you see
「あなたがえくぼに見えているものは

When turned inside out it's a pimple"
表と裏をひっくり返してみれば、それはニキビよ」

 

(間奏)

7)
I said take a trip to my Manor
俺は言ったよ、私の領地の大邸宅までトリップしよう

Then a trip to old Santa Ana
それから古都のサンタ・アナまでトリップさ

Then somebody cried
その時、誰かが叫んだ

"Hey you outside
「ヘイ、外にいるヤツら、

I hope you trip on a banana"
俺は、君たちがバナナを踏んでトリップすることを願うよ」

 

8)

She took me to her home to nestle
彼女は俺を彼女の家に連れて行ったよ 親密に寄り添うためにな

Her room was as big as a castle
彼女の部屋はお城のように大きかった

I said why so much space
俺は言ったぜ、なぜこんなに広い空間があるんだ

Then she said "in case
そしたら彼女は言ったよ「万が一

You get fresh, I need room to wrestle"
あんたが元気回復したら、取っ組み合うスペースが要るのさ」


(間奏)

9)
She asks me to stay to meet mother
彼女は頼むんだ俺に、ちょっと待って彼女の母親に会ってくれと

When I saw her, my face I did cover
俺は彼女の母親を見たとたんに、俺の顔を隠したぜ

When her dad did appear
彼女の父親が現れた時には

I held my one ear
俺は片方の耳をガードした

For 'twas him who chewed off the other
なぜって、それは彼だったからだよ 俺のもう一方の耳を噛み切ったヤツだぜ

 

10)

So I'm back in Rio Janeiro
それで俺はリオ(デ)ジャネイロに帰った

I'm been married for many a year-o
もう結婚して何年にもなるぜ

But for me there's not joy
だけど嬉しくもないんだ

I've got seven boys
7人男の子がいるけど

And each one was born with one ear-o
それぞれみんな、生まれつき片耳がないんだぜ

今回のお話

最後のオチは遺伝学上あり得ない話ですが、一瞬、なるほどと納得しそうになるブラックオチですね。

今回は、「俺は村中で一番、モボだと言われた男」で始まる「洒落男(しゃれおとこ)」の、日米の全歌詞を読んでみた、というお話でした。

日本語版は別訳バージョンで2曲、英語の原曲版は続編が出た、ということで2曲、それぞれ2曲ずつあるのが面白いと思いました。

また、モテる気満々でアメリカにやって来た若いカウボーイの挫折、ということで私が連想したのは1969年のアメリカ映画「真夜中のカーボーイ(Midnight Cowboy)」。

こちらは正反対の深刻なストーリーでしたが、シチュエーションはもしや、この曲「A Gay Caballero」 をモチーフにしたのではないかという気が、ふとしました。