一音九九楽

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いちおんくくらく★ひとつの音からたくさんの楽しいこと

ギ・ベアール「河は呼んで(い)る」フランス語歌詞と日本語歌詞

 

「デュランス河」と「オルタンス」

この曲「河は呼んで(い)る」は、私が小学生の頃のヒット曲ですが、「デュランス河」と「オルタンス」という特徴的な言葉が入っていたので覚えています。

1) デュランス河の 流れのように
     仔鹿のような その足で

     駆けろよ 駆けろ 可愛い(かわい)オルタンスよ
     小鳥のように いつも自由に

「デュランス河」は、どこかの河の名前だろうとは思いましたが、「オルタンス」は、てっきり男の子の名前だとばかり思い込んでいました。

「ハンス」とか「トーマス」とか「ス」で終わる名前は男の子の名前っぽい、というイメージが、私にはあったんでしょうね。今になって考えてみれば「アリス」という有名な女の子の名前もあったりしますが。

2番、3番の歌詞は、こちらです。

2) 岸辺の葦(あし)に 陽はふりそそぎ
     緑なす野に オリーブ実る

     駆けろよ 駆けろ 可愛いオルタンスよ
     心ゆくまで 子羊たちと

 

3) やがてすべてが 流れの底に
  埋もれる朝が 訪れようと

     ごらんよ ごらん 可愛いオルタンスよ
  新しい天地に あふれる水を

 

「河は呼んで(い)る」

訳詞:音羽たかし

何やらストーリーになっていますね。

「河は呼んでる」は、当時の映画のタイトル

実は「オルタンス(Hortense)」は、1958年(昭和33年)に公開されたフランス映画「河は呼んでる」(「でいる」ではなく『でる』)という当時の日本語タイトルの映画に出て来る、主人公の女の子の名前です。「デュランス(Durance)河」という河も、この映画の中に出てきます。

この歌詞で「河は呼んでる」を歌ったのは中原美佐緒(なかはらみさお)さん、1958年(昭和33年)の紅白歌合戦にもこの歌で出演。

歌詞の「オルタンス」が「ウォルタンス」と聞こえますが、「ウォ」ではなく「オ」が正しい発音です。

河は呼んでる(昭和33年)中原美佐緒

youtu.be

中原美佐緒さんは、やはり1958年(昭和33年)から始まったNHKの帯ドラマ「バス通り裏」のテーマソングも歌っていました。

映画のあらすじ

「河は呼んで(い)る」、どんなストーリーの映画なのかは、こちらに載っています。

moviewalker.jp

ネタバレですが、かいつまんで言うと、デュランス河のダム建設で水没する土地を持っていたオルタンスの父親が、莫大な補償金を抱えたまま亡くなってしまい、その補償金目当ての親戚たちに、相続者である一人娘のオルタンスが翻弄されるものの、最後には補償金も横取りされることなく、素朴で思いやりのある大好きな羊飼いの叔父さんと一緒に暮らすことになる、というストーリー。

フランス映画は、身も蓋もない終わり方をする事が多いのですが、珍しくハッピーエンドな映画です。

原題は  L'EAU VIVE(ロ・ヴィーヴ)

原題が " L'EAU VIVE「ロ・ヴィーヴ」 "(生き生きとした水)なので、デュランス河の水のように、堰(せ)き止められても川筋が変わってしまっても、いつも生き生きと流れて行く水のように、オルタンスの人生も、堰き止められても川筋が変わってしまっても、生き生きと流れて行くのだ、という、重ね合わせストーリーなんですね。

音楽担当「ギ・ベアール」

この映画のバックに流れる音楽を担当したのがギ・ベアール(Guy Béart)という人で、そのメロディーに自分で独自に歌詞を付けて、自分で歌ってヒットさせました。

映画の中の音楽では歌はなくて、メロディーだけなので「主題歌」とは言えないのですが。

Guy Béart「L'Eau vive」

youtu.be

「河は呼んでいる」フランス語歌詞

「河は呼んでいる」原題 「L'EAU VIVE(ロ・ヴィーヴ)」 フランス語の歌詞と訳詩はこちらです。5番まであります。

L'EAU VIVE
生き生きとした水

1)

Ma petite est comme l'eau
私の可愛い女の子は水のよう
Elle est comme l'eau vive
彼女は生き生きとした水のよう
Elle court comme un ruisseau
彼女は小川のように走る
Que les enfants poursuivent
それを子供たちが追いかける

Courez, courez
走れ、走れ
Vite si vous le pouvez
できるだけ早く
Jamais, jamais
決して、決して
Vous ne la rattraperez
彼女は捕まらないよ

 

2)

Lorsque chantent les pipeaux
葦笛が歌うとき、
Lorsque danse l'eau vive
生き生きとした水が踊るとき、
Elle mène mes troupeaux
彼女は私の群れを導いてくれる、
Au pays des olives
オリーブの国に。

Venez, venez,
おいで、おいで、
Mes chevreaux, mes agnelets
私の子供たちよ、私の子羊たちよ
Dans le laurier,
ローリエの中に、
Le thym et le serpolet
(香草の)タイムとワイルドタイムの中に。

 

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/e/e8/Laurier.jpg「le laurier(ル・ローりエ)」(月桂樹-ローレル)Wikiより

 

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/a/ab/Wilder_Thymian.jpg「le serpolet(ル・セるポレ)」 (ワイルドタイム)Wikiより

3)

Un jour que sous les roseaux
ある日、葦の草むらの下で、
Sommeillait mon eau vive
私の生き生きとした水はまどろんでいた。
Vinrent les gars du hameau
村から奴らがやって来た、
Pour l'emmener captive
彼女を捕虜にするために。

Fermez, fermez
閉めてみろよ、閉めてみろよ、
Votre cage à double-clé
牢屋を二重の鍵でさ。
Entre vos doigts
君たちの指の間から、
L'eau vive s'envolera
生き生きとした水は飛び去ってしまうのさ。

 

4)

Comme les petits bateaux
たくさんの小舟のように、
Emportés par l'eau vive
生き生きとした水に運ばれて、
Dans ses yeux les jouvenceaux
彼女の目の中では若者たちが、
Voguent à la dérive
当てもなく漂流している。

Voguez, voguez,
こぐんだ、漕ぐんだ、(そうすれば)
Demain vous accosterez
明日には君たちは船着場(彼女)に到着(ドッキング)できるだろう。
L'eau vive n'est
生き生きとした水は、
Pas encore à marier
まだ結婚する気はないけどね。

 

5)

Pourtant un matin nouveau
そしてまた、新しい朝の
À l'aube mon eau vive
明け方には、私の生き生きとした水は
Viendra battre son trousseau
その鍵の鎖を打ち壊しに来るだろうね
Aux cailloux de la rive
岸辺の岩に打ちつけてね

Pleurez, pleurez
泣け、泣け
Si je demeure esseulé
もし私がひとりのままなら
Le ruisselet
その水の流れはもう
Au large s'en est allé
岸から離れて行ってしまったってことなのさ

 

paroles et musique: Guy Béart
作詞と作曲:ギ・ベアール

「生き生きとした水」に例えられる、魅力的で生き生きとした、自由奔放な女の子が、追いかけて来る男の子たちを振り回している、っていう歌ですね。

言うまでもなく、作者「ギ・ベアール」自身もまた、女の子に振り回されているわけです。

「水野汀子」版と「岩谷時子」版

それはさて置き、「河は呼んで(い)る」には、冒頭の「音羽たかし(おとわたかし)」名義による歌詞の他に、水野汀子(みずのていこ)さんの歌詞と、岩谷時子(いわたにときこ)さんによる歌詞があるので、ご紹介しておきます。

「音羽たかし」は個人ではない

なお、「音羽たかし(おとわたかし)」の名前は個人名ではなく、文京区音羽にあるキングレコードの常務やディレクターなど複数人が共同で使っていたペンネームだそうです。

由来は「音羽」が会社の所在地なので姓が「音羽」、その音羽の土地は地形的に高台にあるので名が「たかし」というわけです。

「音は高し」(音楽は崇高なものである)とも読めるわけですね、なるほど。

https://company.kingrecords.co.jp/uploads/history3.jpg

キングレコード本社・2023年

水野汀子訳詩「河は呼んでいる」

こちらは水野汀子(みずのていこ)さんの訳詩。映画の内容とはあまり関係がない、抽象的で無難な内容になっていますね。

水野汀子訳詩「河は呼んでいる」

 

1 そよ風吹く風に 小鳥の群れは
  河の流れに ささやきかける
  ごらんよ あの空 幸せの陽(ひ)が
  あなたの上にも ほほえんでいる

 

2 野バラのかげに 小鳥はいこい
  森の泉も 静かに眠る
  ごらんよ あの河 ささやく声が
  私の胸にも 呼びかけている

 

3 水の流れに 小舟は走る
  こげよ夜明けの 光の中に
  ごらんよ あの日を 輝く朝が
  みんなに優しく 訪れてくる

この水野汀子(みずのていこ)さんの訳詩によるバージョンは、NHK「みんなのうた」でも歌われました。このバージョンでは3番はカットされていますが。

www.youtube.com

1961年に始まった「みんなのうた」は現在も放送中です。

www.nhk.or.jp

岩谷時子訳詞「河は呼んでる」

一方、こちらは実際に「タカラヅカ」歌手の越路吹雪(こしじふぶき)さんが歌った、岩谷時子(いわたにときこ)さんによる訳詩。

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/b/b4/%E5%B2%A9%E8%B0%B7%E6%99%82%E5%AD%90.jpg

岩谷時子さん wikiより

岩谷時子訳詞「河は呼んでる」

 

1)
あの娘は河の 溢(あふ)れる水よ
走れば子等(こら)は 追いかけてゆく
走れ 走れ 流れのように       
誰にも 掴(つか)まらぬよう

        

2)
そよ風ふけば 子羊つれて
あの娘はいつも 森へ出かける    
おいで おいで 羊の群よ       
オリーヴしげる 水のほとりへ

     

3)
いつもあの娘が まどろむときは   
若者たちが まわりを囲む       
しめろ しめろ ハートの鍵(かぎ)を    
溢(あふ)れる水よ 早くお逃げよ       

 

4)
若者たちは あの娘が好きで     
愛のながれに 小舟を浮かべる   
漕(こ)げ 漕げ 恋の港へ        
だけどあの娘は お嫁には早い

    

5)
ある朝のこと 可愛いあの娘を  
やさしい声で 河が呼んでいた    
お行き お行き 河は呼んでる   
お前の河の 溢れる水よ  

さすが、越路吹雪さんがちゃんと歌える歌詞になっていると同時に、オリジナルと同様5番まできっちりあって、フランス語歌詞の主旨も損なわれていませんね。

改めて感服、脱帽です。

今回のお話

今回は、フランス映画「河は呼んでる」の音楽を担当した「ギ・ベアール」が、映画の内容にインスピレーションを得て作詞をして、歌も歌ってヒットした曲「河は呼んで(い)る」のフランス語歌詞と、「音羽たかし」「水野汀子」「岩谷時子」による日本語歌詞をご紹介しました。