一音九九楽

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いちおんくくらく★ひとつの音からたくさんの楽しいこと

「大瀧詠一」「薬師丸ひろ子」すこしだけ聴き比べ・「すこしだけやさしく」の原題は「探偵物語」だった

大瀧詠一・セルフカバー

「大瀧詠一(おおたきえいいち)」は、彼が作ったオシャレでカッコいい、今聞いてもちっとも古くない、アメリカンポップスふうな音楽で知られています。

 

君は天然色

君は天然色

  • 大滝詠一
  • J-Pop
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 

ご自身で歌われるのがメインですが、他の歌手の人のためにも、たくさんの名曲を作っていました。

「風立ちぬ」

「熱き心に」

「冬のリヴィエラ」

「さらばシベリア鉄道」

などなど。他の歌手に楽曲提供した後に、ご自身でも歌われていましたね。

その中でも注目されたのは、大瀧詠一さんが薬師丸ひろ子さんのために、松本隆さんの作詞で作曲した「すこしだけやさしく」でした。

歌詞はこちらです。

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わくわく動物ランド・エンディングテーマ

これはTBSテレビ系列局で1983年4月13日から1992年3月25日まで、関口宏さんの司会で、毎週水曜 20:00〜20:54 に放送されて、「エリマキトカゲ」や「ウーパールーパー」で知られた『わくわく動物ランド』のエンディングテーマ曲です。

この「すこしだけやさしく」には、強烈なインパクトがありました。なぜなら、動物番組の音楽らしからぬ、青春のときめきを歌った、実に爽やかで軽やかなラブソングだったからです。

「すこしだけやさしく」の原題は「探偵物語」だった

それもそのはず、実は、「すこしだけやさしく」は、もともとの原題は「探偵物語」だったのです。

つまり、「すこしだけやさしく」が、映画「探偵物語」のテーマソングになるはずだったのです。

そう思って聞いてみると、映画「探偵物語」は、あの松田優作さんが、良家のお嬢さんで女子大生の薬師丸ひろ子さんのボディーガードとして雇われた、ハードボイルドな私立探偵という役で、最初は反発していた薬師丸ひろ子さんがだんだん惹かれて行く、というストーリーなので、「すこしだけやさしく」の歌詞はぴったりハマるんですね。

映画「探偵物語」劇場予告編

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ところが、薬師丸ひろ子さんご自身が、「すこしだけやさしく」の爽やかな曲調は、映画「探偵物語」の、殺人事件まで出て来るハードな世界観には合わない、との判断を下して、レコードのB面として一緒にカップリングする予定だった「海辺のスケッチ」という曲を「探偵物語」というタイトルにして、こちらをA面、映画のテーマ曲にしよう、ということになったのでした。

「松本隆」作詞秘話

「すこしだけやさしく」も、「探偵物語」も、作曲は大瀧詠一さんで、作詞は神戸在住の松本隆さん。

この2曲の歌詞を作詞する時、松本隆さんはバイク事故を起こして怪我をして入院、ギブスをはめているので「身動きできない」、という状態で作詞していたのです。

なので、その「怪我」にまつわる言葉が、「すこしだけやさしく」と「探偵物語」の歌詞の中に出て来ます。

「もしも心に『怪我』をしたなら」=「すこしだけやさしく」

「さびしさって『包帯』で縛ってあげる」=「すこしだけやさしく」

『身動きも出来ない』の」=「探偵物語」

さらに、「探偵物語」の中に、こんな一節があります。

「透明な水の底 硝子のかけらが光る」

「だから気をつけてね」

これも、松本隆さんが小5の時の野外教室で川で遊んでいた際に、同級生が川底のガラスのかけらで怪我をして、先生が「気をつけなさい」と言ったことを思い出して、歌詞に取り入れたそうです。

「すこしだけやさしく」聴き比べ

さて、ここでご紹介するバージョンの曲は、薬師丸ひろ子さんが「すこしだけやさしく」のレコーディングで歌った際の演奏カラオケに、作曲の大瀧詠一さんが過去の別の機会に「すこしだけやさしく」を歌った際の、音声のみを抜き出して、重ねたものです。

大瀧詠一「すこしだけやさしく」

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そして、こちらが、19歳の薬師丸ひろ子さんの歌声です。

薬師丸ひろ子「すこしだけやさしく」1983年

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以前はネット上に、この曲をレコーディングのために歌っている薬師丸ひろ子さんと、同じ部屋の中にいる作詞の松本隆さんが映っているレコーディング風景がアップされていたのですが、現在は見られないようですね。

その映像では、作詞の松本隆さんがサングラスをかけてカッコ良さげに、レコーディング中の薬師丸ひろ子さんの後ろに椅子を置いて座って、生の歌声を直に聞いてチェックしている、という状況が見えました。

今になって考えてみると、レコーディングルームに作詞家とは言え、歌手以外の人間が入ってていいの?と思いますが、当時はおおらかだったんですね。

その映像での薬師丸ひろ子さんは、それはそれは初々しい女の子でした。

そしてこちらは、すっかり大人になった薬師丸ひろ子さんです。

薬師丸ひろ子「すこしだけやさしく」2012年

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「探偵物語」聴き比べ

そして、こちらも「すこしだけやさしく」と同様の手法で、薬師丸ひろ子さんがレコーディングで歌った際の「探偵物語」の演奏カラオケに、作曲の大瀧詠一さんが過去の別の機会に「探偵物語」を歌った際の、音声のみを抜き出して、重ねたものです。

歌詞はこちらです。

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大瀧詠一「探偵物語」

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薬師丸ひろ子さんご自身が、映画「探偵物語」のテーマソングに推したこちらの曲、原題「海辺のスケッチ」を改題して「探偵物語」となった曲のレコーディング。

確かに、ご自身で推しただけあって、薬師丸ひろ子さんの思い入れはかなり深かったようで、レコーディングは15テイクにまで及んだそうです。

そしてその、テイクを重ねるたびに歌が良くなって来るので、作曲の大瀧詠一さんが興奮してしまった、という話が残っています。

薬師丸ひろ子「探偵物語」1983年

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そして、こちらが、大人になってからの薬師丸ひろ子さんによる「探偵物語」です。

薬師丸ひろ子「探偵物語」2013年

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今回のお話

今回は、薬師丸ひろ子さんが歌った「探偵物語」と「すこしだけやさしく」を、作曲者、大瀧詠一さんの歌と聴き比べてみました。

歌手と作曲家の比較では、作曲者だから歌が上手いとは限らないところが面白いところですが、大瀧詠一さんの場合は「はっぴいえんど」というバンドのメンバーとして歌っていた実績もあって、さすがに勘所を押さえてますね。

そして、今回の「そうだったのか」発見は、「すこしだけやさしく」が、もともとの原題が「探偵物語」であって、映画「探偵物語」の主題歌になるはずだった、という思いもよらない事実でした。

そう思って聞くと、ストンと腑に落ちる歌詞なんですね。

しかし、映画を度外視しても「すこしだけやさしく」は、とても良い歌だと思います。私の好きなベストテンに入るかもしれません。