一音九九楽

一音九九楽

いちおんくくらく★ひとつの音からたくさんの楽しいこと

「私を野球に連れてって」の全歌詞を読む・「セブンス・イニング・ストレッチ」

ドジャースタジアム7回「ストレッチタイム」

大谷翔平(おおたにしょうへい)くんの活躍で、アメリカ大リーグの野球テレビ中継を見るようになった、ドジャースのにわかファンであるミーハーな私です。

 

7回表終了で全員立ち上がって歌う

テレビ中継を見ていると、ラッキーセブン7回の表が終わって攻守交代、7回裏との間の時点で、この時間は「ストレッチタイム」と言うらしいですが、スタジアム全員が立ち上がって、コーラスを始めるんですね。

歌う曲は応援歌「私を野球に連れてって(Take me out to the ball game)」。

伴奏はなぜか「ハモンドオルガン」

youtu.be

こちらの映像はドジャースタジアム、ドジャースのホームグラウンドなので、観客はドジャースファンが大多数。

Take Me Out To The Ballgame (Dodger Stadium, 10/16/2013)

youtu.be

驚いたことに、スタジアムの観客のほぼ全員が、みんながみんな、歌詞も覚えていて歌える模様。

推しのチーム名を叫ぶ

歌の途中で観客の声がひときわ大きく聞こえるところがありますが、この場合は「ドジャース」と言ってます(実際には「ダージャス」と聞こえる)。

ここは歌の中で自分のひいき(最近は「推し」と言うらしい)のチーム名を入れる箇所なので、多分、対戦相手の「カージナルズ」のファンも「カージナルズ」と歌っているのでしょうが、ホームではないので、多勢に無勢、声がかき消されちゃってますね。

とは言え、この歌のこの箇所以外の、地の部分の歌詞は双方のファンにとって共通なので、両チームのファンが共に、気持ち良く歌えるわけです。

その場と時間を、敵も味方もみんなで共有している感が出ますね。

「セブンス・イニング・ストレッチ」を始めたのは大統領

この7回の表から裏に変わるタイミングでのパフォーマンスはMLBの各球場で「セブンス・イニング・ストレッチ」(Seventh Inning Stretch)と呼ばれていて、固まった身体と精神をほぐす、という意味で、観客みんなで立ち上がって、ストレッチしましょう、という時間になっているんですね。

この「ストレッチ」のそもそもの由来は、1910年当時の米国大統領が観戦の際に、このタイミングで立ち上がって伸びをしたからだそうで、それを見た観客がみんな真似をしたことから始まった、とのこと。

ですが、大統領が立ち上がったので、帰ろうとしているのだと観客が勘違いして敬意を表するためにみんな立ち上がった、という説もあります。

下の写真を見ると、当時のVIP席は最前列で、ネットもなかったんですね。

www.history.com

その「セブンス・イニング・ストレッチ」の時にこの歌が歌われるようになったのは、1934年のことだそうです。

ミュージカル映画にもなった

1949年には、この曲を元にしたミュージカル映画「私を野球に連れてって」も作られていて、フランク・シナトラ(Frank Sinatra)、ジーン・ケリー(Gene Kelly)、エスター・ウィリアムズ(Esther Williams)(水泳選手でもある)が出演。

映画の中の役どころとしては、フランク・シナトラとジーン・ケリーが、野球選手兼、舞台でも歌って踊っているボードビリアンで、エスター・ウィリアムズは二人が所属する野球チームのオーナーという設定。

こちらはその予告編です。

映画「私を野球に連れてって」予告

youtu.be

主題歌はもちろん「私を野球に連れてって」。フランク・シナトラとジーン・ケリーが歌っています。

Frank Sinatra ”Take Me Out To The Ballgame”

youtu.be

1927年版「私を野球に連れてって」歌詞

歌詞はこちらです。

実はこの歌の歌詞には、作詞家は同一人物ですが、新旧の二つの版があって、こちらは新版、と言っても1927年のバージョンです。

主人公の女性の名前は「Nelly Kelly(ネリー・ケリー)」となっていますが、もともとの旧版1908年バージョンでは、「Katie Casey(ケイティ・ケイシィ)」となっています。

どちらも韻を踏んでいますね。

なお、ここでの歌は基本的にフランク・シナトラとジーン・ケリーの二人のデュエットで(黒文字緑文字にしてあります)、ところどころ、どちらかの単独の歌になります(Gene Kellyは茶色、Frank Sinatraはブルーにしてあります)。

緑文字部分が、現在も球場で歌われている部分です。新版、旧版ともに共通です。

Take Me Out to the Ball Game
「私を野球に連れてって」
1927 Version
1927年版

 

1)

Nelly Kelly love baseball games,
ネリー・ケリーは野球が大好き

 

Knew the players, knew all their names,
彼女は選手たちを知ってる、選手たちの名前は全部知ってる

 

You could see her there ev'ry day,
球場に行けば彼女はいつでもそこにいて

 

Shout "Hurray," when they'd play.
叫ぶのさ「フレー」って、選手がプレーする時にはね。

 

Her boy friend by the name of Joe 【Gene Kelly】
彼女のボーイフレンド、名前はジョー、

 

Said, "To Coney Isle, dear, let's go," 【Frank Sinatra】
彼は言った「コニー・アイランドに、ねえ、行こうよ」

 

Then Nelly started to fret and pout, 【Gene Kelly】
するとネリーはイライラしてふくれっつらになり始めた

 

And to him I heard her shout. 【Frank Sinatra】
そして、彼に対して彼女がこう叫ぶのを私は聞いたよ。

 

Hey!
ヘイ!

 

"Take me out to the ball game,
「私を野球に連れてって、

 

Take me out with the crowd.
私を大群衆と一緒に連れてってよ。

 

Buy me some peanuts and cracker jack,
私に買ってよ、ピーナッツとかクラッカージャックを、

 

I don't care if I never get back,
私は帰れなくなっても気にしない、

 

Let me root, root, root for the home team,
私に応援、応援、応援させてよ、ホームチーム(←ここに、ひいきのチーム名を入れます)を、

 

If they don't win it's a shame.
もし彼らが勝たないなら、それはみっともない。

 

For it's one, two, three strikes, you're out,
だって、ワン、ツー、スリーストライクさえ取れば、アウトなんだから

 

At the old ball game."
昔から野球ではね。」

 

実はこの1番の歌詞の後に2番の歌詞があるのですが、ここでは歌われていません。

 

2)

Nelly Kelly was sure some fan,
ネリー・ケリーは間違いなく、大したファンだった、

 

She would root just like any man,
彼女は応援したよ、まさに男みたいに、

 

Told the umpire he was wrong,
言うのさ、誤審だよ〜、とアンパイアにね

 

All along, good and strong.
いつも元気でパワフルなのさ

 

When the score was just two to two,
スコアがちょうど2対2になったら

 

Nelly Kelly knew what to do,
ネリー・ケリーは何をすべきか知っている

 

Just to cheer up the boys she knew,
盛り上げるためにね、男の子たちの気持ちをさ、彼女は知ってる

 

She made the gang sing this song:
彼女はこの歌をちょいワル仲間たちに歌わせるのさ

 

"Take me out to the ball game,
「私を野球に連れてって、

 

Take me out with the crowd.
私を大群衆と一緒に連れてってよ。

 

Buy me some peanuts and cracker jack,
私に買ってよ、ピーナッツとかクラッカージャックを、

 

I don't care if I never get back,
私は帰れなくなっても気にしない、

 

Let me root, root, root for the home team,
私に応援、応援、応援させてよ、ホームチーム(←ここに、推しのチーム名を入れます)を、

 

If they don't win it's a shame.
もし彼らが勝たないなら、それはみっともない。

 

For it's one, two, three strikes, you're out,
だって、ワン、ツー、スリーストライクさえ取れば、アウトなんだから

 

At the old ball game."
昔から野球ではね。」

 

lyrics: Jack Norworth
music: Albert Von Tilzer

「クラッカージャック」って?

なお、歌詞に出て来る「クラッカージャック」とは、こんなお菓子です。

ポップコーンに糖蜜を付けて少量の塩味ピーナッツも入っているという、日本で言えば「キャラメルコーン」のようなお菓子ですね。

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/e/ec/Cracker_jacks.jpg

「私をスキーに連れてって」制作のヒントになった

この映画がヒットしたから主題歌の「私を野球に連れてって」がヒットした訳ではなく、「私を野球に連れてって」の曲のヒットにあやかってこの映画ができた、というのが面白いところですね。

この映画のタイトルに触発されて後年作られた日本映画が「私をスキーに連れてって」なのでした。

地下鉄の中で作詞

さて、それでは、そもそものオリジナルはどうやって作られたかと言うと、実際この映画のように、ボードビルの舞台で歌われるために作詞作曲されたのでした。

作詞はジャック・ノーワース(Jack Norworth)、作曲はアルバート・フォン・ティルツァー(Albert Von Tilzer)。共にマンハッタンとブロードウェイの中間にある「ティン・パン・アレー」という、音楽出版社がひしめいて、音楽関係者がたむろしていた地域に出入りしていました。

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/7/7a/Jack_Norworth%2C_The_Orpheum_Show_LCCN2014635843_%28cropped%29.jpg

ジャック・ノーワース

ジャック・ノーワースはソングライターで歌手でボードビリアン。地下鉄の駅構内で見かけた「今日は野球-ポロ・スタジアム」という野球の試合のポスターにヒントを得て、電車に乗っている15分間で、このノベルティソング(コミックソング)を作詞してしまいました。

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/d/da/Polo_grounds_panorama.jpg
当時の「ポロ・スタジアム」

このエピソードは、日本の「服部良一」の「東京ブギウギ」が、やはり列車の中で作曲された、という話と共通しますね。あの鉄道特有のリズミカルなカタンカタンという音と揺れが良い刺激になるのかも。

作詞家も作曲家も野球を知らなかった

面白いことに、作詞のジャック・ノーワースも、作曲のアルバート・フォン・ティルツァーも、それまで野球を見たことがなく、ルールについてもほとんど知らなかったようです。それがかえって素人感を出すことになって、良かったのかも知れません。

三拍子のワルツになっているところも、優雅感、親愛感、リラックス感を出すことに寄与していますね。

この歌のターゲットは明らかに女性客で、野球場に女性たちにも来てもらおう、というMLBの意図だったでしょうが、現在のスタジアムの様子を見ると、女性や子供たちの割合がとても多いですね。その思惑は大当たり、大ヒットだった、と言えるでしょう。

1908年版「私を野球に連れてって」歌詞

この歌を世界で最初に歌ったのは、ジャック・ノーワースの奥さんで、やはりボードビリアンのノラ・ベイズ(Nora Bayes)ですが、最初にレコードに吹き込んだのは エドワード・ミーカー(Edward Meeker)でした。

曲が始まる前の、エドワード・ミーカー自身による最初の口上で「エジソン・レコード」という歴史的ワードが出て来るところがリアルです。

Edward Meeker ・Baseball "Take Me Out to The Ball Game" (1908)

youtu.be

Take Me Out to the Ball Game
「私を野球に連れてって」
1908 Version
1908年版

 

"Take Me Out to the Ball Game"
「私を野球に連れてって」

 

"Sung by Edward Meeker, EDISON RECORD"
「歌はエドワード・ミーカー、エジソン・レコード」

 

1)
Katie Casey was base ball mad.
ケイティ・ケイシィは野球狂。

 

Had the fever and had it bad;
熱が上がってひどくなるばかりさ、

 

Just to root for the home town crew,
地元チームを応援するのにね、

 

Ev'ry sou Katie blew.
おこづかいもケイティは使い果たしてるよ

 

On a Saturday, her young beau
土曜日には彼女の若い恋人が

 

Called to see if she'd like to go,
呼びかけた、会おうよ、もし出かけるなら、

 

To see a show but Miss Kate said,
ショーでも見にさ、だけどミス・ケイトは言ったのさ

 

"No, I'll tell you what you can do."
いやよ、言ってあげるわ、あなたができることを

 

"Take me out to the ball game,
「私を野球に連れてって、

 

Take me out with the crowd.
私を大群衆と一緒に連れてってよ。

 

Buy me some peanuts and cracker jack,
私に買ってよ、ピーナッツとかクラッカージャックを、

 

I don't care if I never get back,
私は帰れなくなっても気にしない、

 

Let me root, root, root for the home team,
私に応援、応援、応援させてよ、ホームチーム(←ここに、ひいきのチーム名を入れます)を、

 

If they don't win it's a shame.
もし彼らが勝たないなら、それはみっともない。

 

For it's one, two, three strikes, you're out,
だって、ワン、ツー、スリーストライクさえ取れば、アウトなんだから

 

At the old ball game."
昔から野球ではね。」


2)

Katie Casey saw all the games,
ケイティ・ケイシィは全部の試合を見てる、

 

Knew the players by their first names;
知ってるさ、選手の下の名前までね、

 

Told the umpire he was wrong,
言うのさ、誤審だよ〜、とアンパイアにね

 

All along good and strong.
いつも元気でパワフルなのさ

 

When the score was just two to two,
スコアがちょうど2対2になったら

 

Katie Casey knew what to do,
ケイティ・ケイシィは何をすべきか知っている

 

Just to cheer up the boys she knew,
盛り上げるためにね、男の子たちの気持ちをさ、彼女は知ってる

 

She made the gang sing this song:
彼女はこの歌を、ちょいワル仲間たちに歌わせるのさ

 

"Take me out to the ball game,
「私を野球に連れてって、

 

Take me out with the crowd.
私を大群衆と一緒に連れてってよ。

 

Buy me some peanuts and cracker jack,
私に買ってよ、ピーナッツとかクラッカージャックを、

 

I don't care if I never get back,
私は帰れなくなっても気にしない、

 

Let me root, root, root for the home team,
私に応援、応援、応援させてよ、ホームチーム(←ここに、推しのチーム名を入れます)を、

 

If they don't win it's a shame.
もし彼らが勝たないなら、それはみっともない。

 

For it's one, two, three strikes, you're out,
だって、ワン、ツー、スリーストライクさえ取れば、アウトなんだから

 

At the old ball game."
昔から野球ではね。」

 

lyrics: Jack Norworth
music: Albert Von Tilzer

カーリー・サイモン版

最近はむしろこの旧版、オリジナル版の方が主流のようですね。

こちらはカーリー・サイモン版。ちょっと歌詞を変えているところもあります。

 Carly Simon ”Take Me out to the Ballgame”

youtu.be

レッドソックス版

こちらは「レッドソックス」版です。合いの手が入ったりします。

メインの繰り返しの中の「home team(ホームチーム)」のところ、最後の繰り返しの時に「Red Sox(レッドソックス)」と言ってます。

youtu.be

今回のお話

今回は、アメリカ大リーグの試合で7回の表が終わったところで観客が総立ちで歌う曲「私を野球に連れてって」の歌詞を読んでみました。

同じ作者によって、別の歌詞が書かれましたが、球場で歌われる部分は共通しているんですね。

聞いた感じ、応援歌、行進曲にありがちな二拍子ではなく、優雅な三拍子のワルツということもあるのでしょうが、楽しくて親しみやすくて陽気な感じ、ちょっとディズニーの世界を感じさせる歌でもあります。

youtu.be

そもそもアメリカでは「野球」というものは「試合」ではなくて、あくまでも「ボールゲーム」という「ゲーム」、どちらかと言うと「遊び」の領域にあるものだ、という考え方が基本にあるんでしょうね。

ちなみに「オリンピック」も、フランス語では"Jeux Olympiques"(ジューゾランピック)と言って、"Jeux"(ジュー)は「ゲーム(複数)」という意味です。

日本では野球には、いまだに戦前から引きずる「教練」とか「修行」的なイメージがつきまといますが、最近は高校野球も「丸刈り」からヘアースタイル自由になって来たり、明るい兆しも見えているようです。