一音九九楽

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いちおんくくらく★ひとつの音からたくさんの楽しいこと

くるみ割り人形「ロシアの踊り」は「ウクライナの踊り(コサックダンス)」だった

 

「くるみ割り人形」の「ロシアの踊り」は「コサックダンス」

チャイコフスキー作曲のバレエ「くるみ割り人形」の中に、「ロシアの踊り」という曲があります。

お菓子の国に招待される

「くるみ割り人形」主人公のクララが、部屋の中での「くるみ割り人形対ネズミ王」の対決の時に「ネズミ王」にスリッパを投げて「くるみ割り人形」に加勢しました。

そのお礼として、クララは「くるみ割り人形(実は王子様)」に招待されて、お菓子の国に行きます。

そこで色々なお菓子とその国の踊りを体験する、という設定ですね。

バレエ原本はフランス本

『くるみ割り人形』の原作は1816年のドイツロマン派のE.T.A.ホフマンによる童話ですが、チャイコフスキーの台本の元になったのはフランスのアレクサンドル・デュマ父子による翻訳版でした。グルメの国フランスのデュマによる翻訳版なので、お菓子の描写がたくさん出てくるんですね。

そのうちの一つの国がロシアというわけです。

トレパック(ロシアの踊り)タラス・シェフチェンコ記念 ウクライナ国立バレエ団・キーウ劇場管弦楽団youtu.be

「トレパック」は実はお菓子の名前ではなく、踊りの名前です。「ホパック」という言葉もあって、これも踊りの名前です。

バレエダンサーたちは独特のステップを踏んでいますね。これが「トレパック」つまり「コサックダンス」です。

コサックダンスはウクライナが本場

ところで、この映像はウクライナ国立バレエ団・キーウ劇場管弦楽団によるものなんですね。

あれ?ロシアじゃないの?と思ったら、この「ロシアの踊り」はいわゆる「コサックの踊り」「コサックダンス」なのですが、実は「コサック」は、正確に言うとロシアではなく、ウクライナの遊牧騎馬民族を主体とする戦闘集団なんですね。

チャイコフスキーの時代には、ウクライナはロシア領だったので「ロシアの踊り」と呼んでも間違いではないのですが、ウクライナは1991年8月24日ソ連傘下から独立したので、正確に言うなら、ここで踊られているダンスは本当は「ウクライナの踊り」というわけです。

チャイコフスキーもウクライナコサック家系

ちなみに「チャイコフスキー」という姓も「かもめ」を意味する「チャイカ」というウクライナによくある姓からロシア風の姓に変えたもので、チャイコフスキーの家系は実はウクライナ・コサックから続いている家系なのだそうです。

チャイカ、と聞いて思い出すのは、1963年6月16日、史上初の女性宇宙飛行士としてソ連のテレシコワがボストーク6号に単独搭乗して70時間50分で地球を48周するという軌道飛行を行った際に、宇宙から地上に呼びかけた「ヤー・チャイカ」という言葉ですね。「私はカモメ」という意味ですが、「カモメ」は、その宇宙飛行プロジェクトでの彼女のコードネームだったのですね。

ジンギスカン「めざせモスクワ」のコサックダンス

コサックダンスというと、もう一つ思い出されるのが、こちらのグループですね。

西ドイツの音楽グループ「ジンギスカン」です。

グループ名と同じ「ジンギスカン」という曲が大ヒットして世間に知られましたが、その次に出した曲が、「めざせモスクワ」です。

Dschinghis Khan Moskauyoutu.be

歌詞はこちらで見られます。空耳でも知られています。

www.worldfolksong.com

「めざせモスクワ」は、1980年のモスクワオリンピックにちなんで作られた曲なんですね。

この曲の「ジンギスカン」のメンバーによる振り付けダンス、とりわけ最後に男性全員でやる低い姿勢で(片手をついてますが)足を交互に上げるダンスが「コサックダンス」のイメージですが、1980年にはまだウクライナはロシア(ソ連)の一部だったわけです。

ウクライナのコサックダンス

で、ウクライナのダンスの映像を探してみると、ウクライナの国立民族舞踊団のウクライナの地元のダンス映像がありました。これを見ると、これは確かに、まさにコサックダンスです。

Virsky Ukrainian National Folk Dance Ensemble | ансамбль ім. П. Вірського | Best of (2022)ウクライナ国立民族舞踊団youtu.be

なるほど、これを見ると、コサックの衣装、そしてコサックダンスはウクライナが本場だということがよく分かります。

チャイコフスキー「くるみ割り人形」のコスチュームとダンス、そしてジンギスカン「めざせモスクワ」のコスチュームとダンスも、見比べてみると、こちらのウクライナのコサックダンスが元ネタということが納得できますね。

「くるみ割り人形」にも色々な演出バージョンがあり、さまざまな振り付けの「ロシアの踊り」があるわけですが、よく見るとみんな、このウクライナコサックダンスのどれかのステップを取り入れているんですね。

このウクライナ国立民族舞踊団のダンスを見ると、ウクライナの人たちはコサックは自分たちの伝統、という意識が、それは強いだろうなあと思いました。

良き伝統が守られると良いと思います。

今回のお話

今回は、「くるみ割り人形」の「ロシアの踊り」、それに、ジンギスカンの「めさせモスクワ」の「コサックダンス」は、調べてみたら、もともとウクライナが発祥だった、というお話でした。

こんなことがあると、この他にも、ある国発祥のもの、と思っていたものが、実は他の国発祥のものだった、というものがあるのではないか、という気もして来ますね。