一音九九楽

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いちおんくくらく★ひとつの音からたくさんの楽しいこと

「おだいりさま」は「お代理さま」じゃないのかあ!「うれしいひなまつり」の歌詞

 

ひなまつりの歌、数十年の思い込み

「おだいりさま」という言葉が出て来る歌のタイトルは「うれしいひなまつり」、作詞はサトウハチローさん、作曲は河村光陽(かわむらこうよう)さんです。

ののちゃん(村方乃々佳)「うれしいひなまつり」

youtu.be

ひらがなで書かれた歌詞

で、歌詞は、ひらがなで書かれています。

うれしいひなまつり

1)

あかりをつけましょ ぼんぼりに おはなをあげましょ もものはな
ごにんばやしの ふえたいこ きょうはたのしい ひなまつり

2)

おだいりさまと おひなさま ふたりならんで すましがお
およめにいらした ねえさまに よくにたかんじょの しろいかお

3)

きんのびょうぶに うつるひを かすかにゆする はるのかぜ
すこししろざけ めされたか あかいおかおの うだいじん

4)

きものをきかえて おびしめて きょうはわたしも はれすがた
はるのやよいの このよきひ なによりうれしい ひなまつり」

作詞:サトウハチロー  作曲:河村光陽(河村直則)

 

子供の頃に聞くのも歌うのも「ひらがな」なので、それがどんな意味なのかは「うすうす」としか判りません。たぶん、こんな意味なんだろうなあ、と思いながら聞いていて、大人になると、もう歌自体を聞くことも歌うこともあまり機会がなくなって来ます。

なので、すっかり大人になってしまっても私には、「おだいりさま」は、要するに偉い人なんだろうなあ、昔の人で偉い人となると「お代官様」みたいにお上に代わって行政を担当する、お上の「代理」を務める人なんだろうなあ、それで「お代理さま」なんだろうなあ、というイメージが、すっかり染み付いていました。

「ふっふっふ、越後屋、おぬしもワルよのお」「お代官さまこそ」

「おだいりさま」は「お内裏さま」だった

で、最近になって、お祭りなのに、「代理」の人をおまつりするというのは、なんだかちょっと変だな、と思い、調べてみました。

そして分かったこと。

1)なんと、「だいり」は「代理」ではなく「内裏」と書いて「だいり」と読む、という事。

2)そして「内裏(だいり)」というのは、京都での「御所(ごしょ)」つまり「皇居」のことであって、そこに住んでいる方を表している、ということ。

3)ということは、なんと「内裏」とは、「天皇陛下」その人のことである。

ということが分かって、数十年ぶりにびっくり仰天です。

それで、ひな壇に三人官女や五人囃子までがにぎにぎしく並んでいる、というのもようやく納得です。

正確には「内裏」は天皇ご夫妻

で、ここからは「チコちゃん」情報だったりしますが、この歌「うれしいひなまつり」では

「おだいりさま」が男性、つまり「男雛(おびな)」で、

「おひなさま」が女性の「女雛(めびな)」である、

という解釈になっているところ、正確には、「天皇皇后、両陛下」のことを「お内裏(だいり)さま」と呼ぶのであって、「おひなさま」というのは、ひな壇に並んだ全部のキャラクター、に加えて、「ぼんぼり」などのグッズも入れた全体を言うのだそうです。

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/7/77/Hina-ningyo_Hina-matsuri20160226_125043.jpg

wikiより、ひな祭り、ひな壇七段飾り

あかいおかおの「うだいじん」は、実は「左大臣」だった

もう一つ、「そうだったのか!」情報があります。

歌詞3番にある、

「あかいおかおの うだいじん」

というのは、正確には「右大臣(うだいじん)」ではなく「左大臣(さだいじん)」なのだそうです。

ややこしいですが、私たちが正面から見て右にいらっしゃるのは、実は「左大臣」であって、向かって左においでなのが「右大臣」なのです。右大臣は若者で、左大臣は右大臣よりも地位が上(今で言う「総理大臣」)ですが高齢なので、すぐに酔っ払う、というので顔が赤いのでしょうか。

左大臣が「総理大臣」なら、右大臣は若者なので、「官房長官」といった役割でしょうか。二人合わせて「随身(ずいしん)」と呼ばれます。

神社・仏閣の「隋神門(ずいしんもん)」には、よく見ると、向かって右側には左大臣、向かって左側には右大臣(「矢大臣」とも)が鎮座しているのが見えます。

「右」「左」が、逆なわけ

と言うのも、神社仏閣でもそうですが、ひな壇でも、「右」、「左」、と言うのは、おまつりされている方から見ての、「右」、「左」、なので、お参りする方から見ての、「右」、「左」、とは逆になっているわけです。

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/0/0f/Kyoto-gosho_Shishinden_zenkei-5.jpg

wikiより、京都御所、右近の橘と左近の桜

なので、右近の橘(うこんのたちばな)、左近の桜(さこんのさくら)も、おまつりされている方から見た、「右」、「左」、で配列されているわけですね。

古来日本では「左方上位(まつられる方から見て)」という考え方があって、舞台も観客から見て右側ですが、演者から見ての左側が「上手(かみて)」と呼ばれます。反対側は「下手(しもて)」です。

なぜ、左の方がエライのか

これは「天子南面す(てんしなんめんす)」という中国から来た考え方ですが、皇帝が、天空において、いつもその位置が変わらない北極星に例えられ、北から南を見ているという考え方から、宮廷、御所なども正面は南向きに建てられました。そうすると、行事などの時も皇帝は南を向いているわけです。

そうすると、、太陽が昇って来るのは東、つまり南を向いている皇帝から見て左側、ということになります。なので、「左の方がエライ」ということになったのでした。

時代とともに配置も変わる

というわけで、昔は男雛が私たちから見て、向かって右だったのですが、現在はなんと向かって左になっています。地方によっては右のままのところもありますが。

これは西洋文化が入って来たことの影響で、大正天皇の時から、天皇陛下が向かって左(天皇陛下から見れば右)に位置するようになって、ひな壇もその配置になったものの、三人官女以下の配列は昔のままなので、「左方上位」「右方上位」が混在することになっているんですね。

もし、女性天皇が誕生することになると、ひな壇での配置がどうなるのか、注目されるところです。

今回のお話

今回は、私が数十年にわたって「お代理さま」だと思い込んでいた、「うれしいひなまつり」の歌詞が、実は「お内裏さま」であることにようやく気が付いた、という、NHK「チコちゃん」に「ボーッと生きてんじゃねーよ!」と叱られそうなお話でした。