一音九九楽

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いちおんくくらく★ひとつの音からたくさんの楽しいこと

「ラッパと娘」(笠置シヅ子)の「バドジズ・デジドダー 」は「バドディドゥ・デディドゥダー」である

 

NHK朝ドラ「ブギウギ」の「ラッパと娘」

NHK朝ドラ「ブギウギ」で、「ブギの女王」と呼ばれた「笠置(かさぎ)シヅ子」役の趣里(しゅり)さんが「ラッパと娘」を歌っています。

youtu.be

「ラッパと娘」の「スキャット」

「笠置シヅ子」が「ブギの女王」と言われたについては、ちゃんと理由があって、立て続けに「ブギウギ」のリズムによるヒットを飛ばしたからです。

「東京ブギウギ」、「買い物ブギ」、「ヘイヘイブギ」「ホームランブギ」「ジャングルブギ」など、まだまだたくさんあります。

「ジャングルブギ」は、黒澤明監督の映画「酔いどれ天使」の中で「笠置シヅ子」自身がナイトクラブ歌手の役で出演して歌っています。この歌の作詞はなんと「黒澤明」自身です。

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/8/80/Shizuko_Kasagi_Drunken_Angel.png
映画「酔いどれ天使」の一場面 Wikiより

「笠置(かさぎ)シヅ子」の「東京ブギウギ」のヒットからさかのぼること9年前、1939(昭和14)年発売のヒット曲「ラッパと娘」の歌詞の中に、わけの分からない言葉が出てきます。

「ラッパと娘 」オリジナルの全曲版はこちらです。

【朝ドラ応援】マジ神曲!笠置シヅ子『ラッパと娘』の衝撃【1939年】youtu.be

わけの分からない歌詞は

「ラッパと娘」の歌詞に出て来る、わけの分からない言葉だけ、実際に聞いて抜き出してみました。

バドジズ デジドダー 

バドジズ デジドダー 

 

チャラララ ララー

バドゥジパッジュ ドゥンドゥドゥーン 

ドゥンドゥン デジドダーン


バドジズ デジドダーン

 

 

バドジズ デジドダー 

バドジズ デジドダー 

 

チャラララ ララー

バドゥジパッジュ ドゥンドゥドゥーン 

ドゥンドゥン デジドダーン

 

 バドジズ デジドダーン

 

デジデジドダーン  デジドダーン

バダド デジドダーン

 

デジデジドダーン  デジドダーン

バドダ ジデドダーン

 

バドダドジ デジ  エジエジドダーン 

バドダドジ デジエジドダーン

 

バウン、バウン、バウン、バウン、

バン、バン、バン、バン、

バンバンバンバン ババババーン

 

バーンジー、バーンジー、バーンジー、バーンジー

バーーンジー、バーーンジー

ダジッ ダジッ ダジッ ダジッ ダジッ ダジッ

ダーーーーーーン

 

これは、ジャズにおける「スキャット」というものです。

全体の歌詞はこちらです。

utaten.com

なお、歌詞の中に「あふれば」という言葉が出て来ますが、これは関西弁。
漢字で書くと「煽れば」で、関東読み、標準語読みをすると「あおれば」です。

「ラッパと娘」は作詞も「服部良一」

「ラッパと娘」は、作詞・作曲ともに、服部良一さんなんですね。

私は服部良一さんは作曲家として認識していたので、この曲の作詞も服部良一さんだとは知りませんでした。

なので、このわけの分からない「スキャット」も、服部良一氏の考案によるものです。

「スキャット」とは、ジャズの、楽器による即興アドリブ演奏のように、声でも、歌詞ではない音、言葉にもなっていない音を、原則的には「即興」「アドリブ」で歌うことを言います。

その「アドリブ」の意味通り、笠置シヅ子さんも服部良一氏の考案した「スキャット」歌詞そのままではなく、自分なりのノリで変えて歌っているようですね。

ジャズはアドリブ、司会もアドリブ

アドリブと言えば思い出すのは、2人のレジェンド司会者、「笑っていいとも!」のタモリさんと「クイズダービー」「イレブンPM」「ビートポップス」の大橋巨泉(おおはしきょせん)さん。

お二人とも、何が起こるか分からないテレビの生本番を、当意即妙の司会で進行して行くという才能の持ち主で、名司会者として知られているのですが、お二人ともジャズ好きという共通点があるんですね。

考えてみるとジャズも司会も、本質は当意即妙の「アドリブ」ということになるので、ジャズの好きな人は司会もしゃべくりも上手い、ということになるのかも。

「タモリ」の「ハナモゲラ語」

ジャズ好きで、自分でトランペットも吹くことで知られるタモリさんが、若い頃にやっていたネタで、「4カ国語マージャン」という芸がありました。一人で各国語を話す四役を演じるわけですが、それぞれの国の言葉に聞こえるけれども、実は全くのデタラメ言葉を話しているのが笑いを生む、という芸で、そのデタラメ言葉を「ハナモゲラ語」と呼んでいました。

「スキャット」と「ハナモゲラ語」には、「即興」「アドリブ」という点で、共通するものがありますね。

「大橋巨泉」の「はっぱふみふみ」

「ボイン」や「うっしっし」などの流行語を生んだバラエティーのレジェンド司会者、大橋巨泉さんも、ジャズ評論家として知られるくらいジャズ好きでした。

登場したパイロット万年筆のCMでは短歌ふうに「みじかびの きゃぷりきとれば すぎちょびれ すぎかきすらの はっぱふみふみ」という、わけが分からないけど、なんとなく言いたい雰囲気は分かる、という文を作ってしまうなど、タモリさんと同じような、ジャズ的アドリブセンスがある人でした。

ちなみに「巨泉」は俳号だそうです。

こちらのCMは、短歌ふう「のにのに」バージョンです。

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ジャズの王様

服部良一氏はこの曲を作るにあたって、同時代の「ジャズの王様」と言われたルイ・アームストロングを、そのスキャットを含めて参考にしたと思われますが、ルイ・アームストロングについては、彼自身が、そもそもの「スキャット」の始まり、起源だと言われているエピソードがあります。

ルイ・アームストロング「ヒービー・ジービーズ」

ルイ・アームストロングが「ヒービー・ジービーズ」という、当時流行していたダンスについての曲の録音本番中に、なんと歌詞カードを落としてしまった。そのままでは演奏、録音中止、となるところ、この曲は演奏部分が長く、歌の部分がわリと短い、ということもあってか、歌詞カードなしで、適当な、言葉にならない言葉でごまかしてなんとか歌い通した。

その、本来なら、ちゃんとした歌詞ではないのでボツになるべき録音が、なぜかスタッフに大ウケだったので、そのままレコードになった。それが「スキャット」の始まりだ、というお話です。

Heebie Jeebies-Louis Armstrong and his Hot Five

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ところが実際の曲を聞いてみると、ちゃんと歌詞はもれなく歌っているのです。途中にスキャットをはさむものの、結局全部の歌詞を歌ってるんですね。

歌詞カードを落として緊急避難的に、適当にスキャットしてる間に、落とした歌詞カードを拾い上げて、通常演奏に戻ったのでしょうか。

歌詞が分からなくなったら、「ラララー」とか「ルルルー」とか「夜明けのスキャット」ふうに歌いそうなところを、リズムに乗ったノリの良い自分なりの「半分言葉」を、まるであらかじめの歌詞のように歌いこなしてしまったところが独創的だった、というわけでしょうね。

スキャットの女王

「ジャズの王様」ルイ・アームストロングと仲良しというエラ・フィッツジェラルドはルイ・アームストロングの「スキャット」のフォロワー的立場で、それをさらに発展させたことから、「スキャットの女王」と呼ばれています。

エラ・フィッツジェラルド「ブルー・スカイ」

こちらの曲ではいきなりスキャットから始まります。
「Blue Skies」Ella Fitzgerald

youtu.be

歌詞としてはこれだけです。

ブルースカイ(Blue Skies)

Blue skies
広大な青空が

Smiling at me
私に微笑みかけている

Nothing but blue skies
広々とした青空しか

Do I see
私には見えない

 

Bluebirds
たくさんの青い鳥たちが

Singing a song
ひとつの歌を歌っている

Nothing but bluebirds
たくさんの幸せの青い鳥たちだけが

All day long
1日中歌い続けている

 

Never saw the sun shining so bright
太陽がこんなに明るく輝くのを見た事がない

Never saw things going so right
物事がこんなにうまく行くのを見た事がない

Noticing the days hurrying by
気が付けば、毎日があっという間に過ぎ行く

When you’re in love, my how they fly
恋する時、まあそんなにも毎日が飛んで行く

Blue days
ブルーな日々

All of them gone
それはもう全部なくなった

Nothing but blue skies
あるのは無限の青空だけ

From now on
これから先はずっとだよ

 

作詞作曲:

アーヴィング・バーリン(Irving Berlin)

これだけのことなのですが、たったこれだけの歌詞に込められた、人生を変えるほどの感動や思いを表すにはこれだけの歌詞では気がすまないので、思いの丈を思いのままに歌いまくったら、こんなスキャットになってしまった、という感じですね。

私はジャズは門外漢なのでさっぱり分かりませんが、そもそものジャズの即興演奏の由来というのは、そんなところにあるのかな、とも思います。私がこの曲から受けた感動はこんな感じです。あなたはどう思いますか?みたいな。

スキャットの途中で結婚式の入場行進曲の一節が出て来てしまうほどに、エラ・フィッツジェラルドのこの曲についての感動、ハッピー感があふれ出ているのだろうと思います。

今回のお話

今回は、「ラッパと娘」の「バドジズ・デジドダー」というわけの分からない言葉は「スキャット」である、というお話でした。

1939年当時の言語慣習、世相などを考慮すると、服部良一さんは、「バドジズ デジドダー 」も、本当は英語ふうに「バドディドゥ デディドゥダー」と歌わせたかったのではないかと推察します。そして、よく聞いてみると実際「バドディドゥ デディドゥダー」と歌っているようにも聞こえます。

さらに言えば、「笠置シヅ子」は、もともとは「笠置シズ子」と「ズ」だったのを、わざわざ自分で「ヅ」に変えているので、「わてはシドゥ子やで〜」と英語スキャットふうに洒落たのかも知れません。

ドラマによると、お子さんに自分のことを「マミー」と呼ばせていたので、生活にも積極的に「欧米ふう」を取り入れていらっしゃったのかも。