一音九九楽

一音九九楽

いちおんくくらく★ひとつの音からたくさんの楽しいこと

本場ブラジル「ボサノバ」の、拍手が「指パッチン(フィンガー・スナップ)」なのは何故?

 

ボサノバの代表曲「イパネマの娘」

ボサノバと言えばこの曲、というくらいによく知られた曲。

アストラッド・ジルベルト「イパネマの娘」1962年

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「イパネマ」というのは、ブラジルのリオデジャネイロ市の、コパカバーナの隣にあって、同じようにおしゃれなリゾート海水浴場として知られるイパネマ海岸のことです。

イパネマビーチ、岬を挟んでコパカバーナが隣接(wikiより)

日本で言えば、湘南江ノ島を挟んで、東側にある「片瀬東浜海水浴場」の反対側にある「鵠沼(くげぬま)海水浴場」あたりのイメージでしょうか。

作曲はブラジルのアントニオ・カルロス・ジョビン(トム・ジョビンとも呼ばれる)。

テレビでNHKを見ていたら、「世界ふれあい街歩き・リオデジャネイロ〜ブラジル・音楽の都」で、アントニオ・カルロス・ジョビンが「イパネマの娘」のインスピレーションを得た、というカフェが紹介されていました。

「イパネマの娘」が生まれたカフェ

そのイパネマ海岸沿いにあったカフェバー、ポルトガル語で「Veloso(ヴェローゾ)=綿毛のような」という名前の店に、「ジョビン」とその仲間たちがいつもたむろしていました。

カフェ「ヴェローゾ」公式Facebookより

カフェバーの名前は「イパネマの娘」の大ヒットにあやかって、現在は曲名そのままの「Garota de Ipanema(ガロータ・ジ・イパネマ)」つまり「イパネマの娘」に変わって、今も賑わっています。

www.facebook.com

カフェの前を歩いて海に向かう娘

当時は店員だった今の店主が「トムはいつもこの席にいたよ、そうすると仲間が集まって来るんだ」と、今もそのまま置いてある当時のテーブルを紹介していました。音楽家やアーチストが集まるいわゆる「サロン」的な場所だったようですね。

そのテーブルの上の壁に女性の写真が飾ってあります。

「彼女が『イパネマの娘』のモデルさ」

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/e/ea/Helo_Pinheiro.jpg

wikiより「イパネマの娘」のモデル「エロイーザ・ピニェイロ」

さらに、トム直筆の大きな楽譜パネルも置いてあります。

トムの指定席とトム直筆の楽譜(公式Facebookより)

カフェでの「ジョビン」の飲み仲間の中に、「イパネマの娘」の作詞をした「ヴィニシウス・ヂ・モライス」もいました。彼は本職は外交官でした。

作詞家も作曲家もプレイボーイ

「いつもカフェの前を通ってビーチに行っている女の子がいた。時々、母親のタバコを買いにカフェに入って来たりしていた。10代の、長身で、目立つ女の子だったので、客の男どもから称賛の口笛を吹かれたりしていた。それが彼女さ」

店内にたむろしていた、この曲の作詞家も作曲家もプレイボーイだったので、その女の子に興味を持って、その女の子についての歌を作ることになりました。

なので、歌詞の内容としても「見ろよ、イパネマビーチの、歌詞では表せないくらい、とても魅力的な女の子だけど、まっすぐ前を見ていて、オレら誘ってくる男なんか眼中にないのさ、あ〜あ、まあ、彼女がいるだけで世界に輝きと愛を増やしているわけだから、いいんだけどね」という、彼らの実体験と心境そのままの歌詞なのでした。

カフェバー「Veloso(ヴェローゾ)」の当時から、外を歩いている人が見えるくらい、開放的な店なんですね。まあ、基本的に暑い場所なので、自然にそうなるんでしょう。

地元本場のボサノバの聞き方

さて、番組のカメラはこのカフェから外に移動します。

旧市街をあちこち回っているうちに、本当の夜になって、店内でボサノバを演奏していて、入りきれない客であふれている大賑わいの居酒屋にたどり着きます。店は狭くて扉も開けっぴろげです。

ここでは、店内でボサノバを演奏して歌っているわけですが、曲が終わるたびに、客は拍手をするのではなく、指パッチンをするんですね。実際にパキパキ鳴らしてる人もいますが、人差し指と親指をこすり合わせて指を鳴らすしぐさだけの人もいます。

最近は親指と人差し指を交差させてのハートマークを作る「フィンガー・ハート」という流行りのポーズがあるようですが、それともちょっと似ていて、いい感じかも。

客は片手にグラスを持ってるので拍手ができないから、指パッチンなのかと思ったら、そういうこともあるかもしれませんが、店のオーナーによると、「この辺りではどの家も窓を開けっぱなしなので、近隣住民にうるさくないように指パッチンなのさ」

とのことで、実は近隣騒音対策なのでした。

ボサノバは省エネ

何せ暑いので、昼間は人通りもあまりないような街で、夜になると賑わうボサノバ酒場、それでも周りに遠慮して小さな音で楽しむ。

ボサノバはこんな暑くて気だるくなるような、そして人口密度の高い環境だから生まれた、こんな環境に最適化された音楽なのかな、という気がしました。

ボサノバという音楽自体の、軽くてノリノリでカッコいいリズムなのだけれど、ささやくような声で、出しても普通の会話程度の大きさの声で歌う、という特性も、周囲にうるさくないように、という配慮からなのでしょうか。

あるいはこれには、暑さで体力をなるべく消耗しないようにする「省エネ」という意味もあるのかもしれません。

「ホット」より「クール」

感情を表すのが目的の「歌」とは言え、あまり感情を込めて歌うのは、ただでさえ暑いのに、そんなことをしては余計に暑苦しい、というわけで、あまり感情を表さないクールな表情とクールな歌い方が心地よい、というわけです。

楽器も基本ギターだけ。他には付いても、ドラム、ベース、ピアノ、サックスくらい、という、アコースティックで最低限の気軽な楽器を使って、仲間内だけでおしゃべりしているように楽しむ、という感じなので、ジャズコンボとの相性も良いみたいですね。

今回のお話

今回は、本場ブラジルのナマのボサノバの聞き手はなんと、普通の拍手のかわりに「指パッチン(フィンガー・スナップ)」をするんだ、という発見から、ボサノバのクールな成り立ちを考えてみました。

とは言え、ブラジルは気軽でクールなボサノバの一方で、情熱的でホットなサンバでも有名なので、そちらの成り立ちにも興味がありますね。