一本の弦だけで弾くバッハ
「G線上のアリア」は、バイオリンの4本ある弦のうち「G線」と言う一本の弦だけで弾く、バッハの「アリア(抒情的なメロディー)」です。
バッハ 「G線上のアリア」youtu.be
「G線上のアリア」の「G線」とは
バッハの「G線上のアリア」は、英語で言うと「Air on the G String」となります。
「String」というのは「弦」のことなので、「G線」という訳になります。
その「G線」というのはバイオリンの弦の名前で、4本あるうちの、バイオリンの正面から見て一番左がわにあって、一番太くて、一番低い音を出す弦のことです。
ちなみに、この「G線」の隣の弦は「D線」、その隣は「A線」、その隣、一番右がわにあって、一番細くて、一番高い音が出る線は「E線」です。
だんだん細くなります。
開放弦、つまり、指で弦を抑えない状態で弾くと出る音が、
左端の弦が「G(音名ト・階名ソ)」の音、
その右隣が「D(音名ニ・階名レ)」の音、
その右隣が「A(音名イ・階名ラ)」の音、
右端の弦が「E(音名ホ・階名ミ)」ということになりますね。
なので、この「G線上のアリア」は、バイオリンの「G線」の弦一本だけを使って演奏する、「アリア」と言う曲想の音楽だ、というわけです。
アリアとは
「アリア(ARIA)」は「抒情的な歌(のようなメロディー)」のことで、直接的にはイタリア語で「空気」のこと。
英語やフランス語でも「AIR」と言うんですね。
英語で「エア」、フランス語では「エーる」。
そう言えば、航空機会社の名前に使われていますね。
ブリティッシュエア(英国)
エールフランス(フランス)
バッハの手抜きか
バイオリンの弦一本だけで済まそうだなんて、バッハも実は手抜きの人だったんだなあと思ったら、そうではありませんでした。
編曲版だった
この曲「G線上のアリア」は確かに、ヨハン・ゼバスティアン・バッハの『管弦楽組曲第3番ニ長調 BWV1068』の第2曲「エア (Air)」なのですが、それを、ドイツのヴァイオリニスト「アウグスト・ウィルヘルミ」が、ピアノ伴奏によるバイオリン独奏のために編曲したものが「G線上のアリア」と呼ばれて、現在では本家の方もそう呼ばれるようになっている、という事情なんですね。
こちらは元ネタ、「小澤征爾(おざわせいじ)」指揮のNHK交響楽団によるバッハの『管弦楽組曲第3番ニ長調 BWV1068』の第2曲「エア (Air)」です。
Bach: Orchestral Suite No. 3 in D major,Air
- Seiji Ozawa/NHK Symphony Orchestra(1995.1.23)youtu.be
「ウィルヘルミ」が編曲する時に、原調のニ長調からハ長調に移調したので、バイオリンの4本ある弦のうち最低音の弦、G線のみで演奏できるようになった、というのですが、実際はむしろ、G線一本のみで演奏できるようにするために移調した、のかも知れません。
バイオリンの魅力を最大限引き出す
と言うのも、バイオリン一本による「G線上のアリア」聞いてみると確かに、一番太い線のみで演奏しているので、バイオリンがかの有名な「ストラディバリウス」だということもあり、音色も太くて奥行きがあって、ふくよかな感じがするんですね。
バイオリンが出せる一番低い音であるG線の開放弦まで使うので、原曲よりもバイオリンの能力、魅力をめいっぱい引き出している、と言えます。
ビブラートは効かない
ただ、開放弦のGの音だけ、指で押さえないので、「ビブラート」が効きません。
そこまでバッハは考えた上で、ビブラートを効かせるために「ハ長調」から1音上げた「ニ長調」にしていたのだとすれば、かなりの配慮だと言えます。
バッハもここで、さあ、これはビブラートを効かせるために1音上げるか、効かせないでも1音下げた方が音がふくよかになるか、どちらにしようかな〜と考えたかも、と思うと楽しいですね。
というわけで、この曲に関してはバッハ手抜き説は当たらないようです。
もしそうなら、ボサノバの方で、「ワン・ノート・サンバ」という、これもひたすら一つの音階で押して行く「手抜き」っぽい曲があるので、バッハは意外にも「ブラジルスピリット」の持ち主だったのだろうか、という仮説ができるところでした。
ワン・ノート・サンバ」とは「一つの音だけのサンバ)」
ブラジルのシンガーソングライター、「アントニオ・カルロス・ジョビン」と「ニュウトン・メンドンサ」、二人による作曲とポルトガル語作詞による「ワン・ノート・サンバ」は、暑い国ブラジルで生まれた「ボサノバ」です。
「ノート」とは「音」のことです。
Wikiより「アントニオ・カルロス・ジョビン(Antônio Carlos Jobim)」
そもそも暑いブラジルでは、なるべく無駄な動きをして暑くならないように、少ないエネルギーで歌えるボサノバが生まれた、という説があります。(私の説です)
もはや、音程を変えることさえ暑苦しいよ〜、物憂いなあ、めんどんさ〜、ということで、とうとう「一つの音階だけでいいよ」、というところまで行き着いたのがこの「ワンノートサンバ」なんですね。
原題は「Samba de Uma Nota So(サンバ・ヂ・ウマ・ノタ・ソ)」意味としては「一つの音だけのサンバ)」。
『ソ』は「ドレミファソ」の「ソ」ではなくて、ポルトガル語で『〜だけ、〜のみ』という意味です。
とは言うものの、この曲の調(ルート・根音)である「G(ソ)」も同じ発音の「ソ」だし、実際、「ワン・ノート・サンバ」の曲の最初にに出て来る音は「D(レ)」の音の連打ですが、2番目のフレーズで出て来て、そのまま「ワン・ノート」で押しまくる音は「G(ソ)」の音なので、ダブルミーニングで、両方の意味を掛けているのかもしれません。
結婚式向けでもある。
「一つの音階だけでいいよ」と言う発想から出来た曲なので、結婚式関連の音楽として演奏されても違和感は無いわけです。
何故なら、付けられた歌詞の内容が、
「あちこち忙しく音程を変えるより、一つの一定の音程の方がよっぽど落ち着く、あなたに一番落ち着くようにね」
という「おのろけ」歌詞なので。
One Note Samba - Toronto Jazz Trio / Quartet - Wedding Bandyoutu.be
こんな楽しい演奏もあります。
「ディーン・マーチン」と「カテリーナ・バレンテ」
「ディーン・マーチン」も、ステージ上でウィスキーグラスを片手にまったりと歌うスタイルなので、脱力系の歌手として知られています。
早口は苦手なので、6カ国語を話せる「カテリーナ・バレンテ」に、ほぼ全部おまかせですね。
Dean Martin & Caterina Valente - One Note Sambayoutu.be
「カテリーナ・バレンテ」が歌っているのは原語で、ブラジルの言葉であるポルトガル語ですが、この曲には英語の歌詞も付いていて、それはアントニオ・カルロス・ジョビン自身が単独で、英語の歌詞を付けたものです。
今回のお話
今回は、バッハの「G線上のアリア」はバイオリンの一本の弦だけを使って演奏する、「手抜き」っぽい曲なので、ボサノバの、「一つの音階だけでいいよ」と言う内容の「手抜き」っぽい曲「ワンノートサンバ」との共通点を探ってみた、と言うお話でした。
「G線上のアリア」を、バイオリンの一本の弦だけを使って演奏できるように編曲したのはバッハ自身ではなかった、ということが判明したので、バッハの「手抜き疑惑」は晴れたわけですが、考察している間に、バッハの全く別の、もっと手の込んだ「手抜き疑惑」が浮かび上がりました。
ちょっと捜査してみます。