一音九九楽

一音九九楽

いちおんくくらく★ひとつの音からたくさんの楽しいこと

本当はこわい「クラリネットをこわしちゃった」。「オパキャマラッド」は、フランス、ナポレオン軍の行進曲だった。

 

童謡としての「クラリネットをこわしちゃった」

 

クラリネットをこわしちゃった」という曲があります。

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歌詞はこちらです。

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2つの違和感

パパからもらったクラリネットで練習をしている主人公。

 

1番では、クラリネットから、まず「ド」の音が出なくなってしまった。

2番では、「ドとレとミ」の音が出なくなってしまった。

3番では、「ドとレとミとファとソとラとシ」の音が出なくなってしまった。

 

つまりは、一つずつ、クラリネットの音が出なくなって行って、最後には全部の音が出なくなってしまった、という歌です。

ここまでは単純に、面白く出来てる歌だな、と、NHKの5分間番組「みんなのうた」で、ダーク・ダックスの歌で紹介された1963年当時、中学生だった私は思いました。

しかし、この歌の、ここからあとの展開に感じた違和感が2つ。

違和感その1・パパが怒るのはなぜ?

クラリネットの音が出なくなるたびに、パパが、怖い声で「お〜い!」とか「こらあ!」という感じで怒るのです。

クラリネットの音が出なくなったことが、そんなに怒るほどのことなのだろうか、という違和感。

だって、わざとこわしたのではなく、とっても大事にしてたのですから。

違和感その2・謎のリフレイン

「オパキャマラッド」という、謎の呪文のようなリフレインも、わけがわからなかったですね。

パパから怒られた主人公が、とっさに、わけが分からないことを言ってパパを煙に巻いて、その場の状況から逃げよう、という戦略なのだろうか、とか思ったものでした。

ほかの解釈では、曲が始まる前の、あの調子外れの音、その音自体を表しているんじゃないの?という人もいました。

その後、わからないままに、この曲のことはすっかり忘れていましたが、ネットで久しぶりにこの曲を発見しました。

原曲はフランス語

これは、なんと原曲がフランス語の歌なのでした。

フランスでも童謡として紹介されています。

 

フランス語版「J’ai perdu le DO」


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J’ai perdu le DO  de ma clarinette(ぼくのクラリネットの「ド」の音が出なくなった)=フランス伝承歌歌詞

 

1番歌詞

J’ai perdu le DO de ma clarinette
(ぼくのクラリネットの「ド」が出なくなった)
J’ai perdu le DO de ma clarinette
(ぼくのクラリネットの「ド」が出なくなった)

Ah si papa il savait ça, tra-la lala
(あーもしパパがそれを知ったらっらっららー)
Ah si papa il savait ça, tra-la lala
(あーもしパパがそれを知ったらっらっららー)

Il dirait Ohé,
(彼は言うね「おい」)
il chanterait Ohé
(彼は歌うよ「おーい」)

Au pas, camarade Au pas, camarade Au pas, au pas, au pas
(リズムを合わせて、いっしょに進もう)
Au pas, camarade Au pas, camarade Au pas, au pas, au pas
(調子を合わせて、みんなで行進)

 

2番歌詞1節目(あとは1番と同じ)

J’ai perdu le DO , le RE , le MI de ma clarinette
(ぼくのクラリネットの「ド」と「レ」と「ミ」が出なくなった)

 

3番歌詞1節目(あとは1番と同じ)

J’ai perdu le DO , le RE , le MI , le FA , le SOL , le RA , le SI de ma clarinette
(ぼくのクラリネットの「ド」と「レ」と「ミ」と「ファ」と「ソ」と「ラ」と「シ」が出なくなった)

「オパキャマラッド」の謎とき

全部の音が出なくなっては大変なのですが、つまり「オパキャマラッド オパッキャマラッド オパオパオパ」という謎の呪文のような歌詞も、実はちゃんと意味のあるフランス語であることが分かりました。

 

正確に書くと「オ・パ・カマラッド」

これがひとつの文章です。

直訳すると

「そろえようよ、足並みを、同志」

ということですね。

 

「オ・パ」だけで、「足並みをそろえる」「歩調を合わせる」という意味になるんですね。

「キャマラッド」「カマラッド」camarade「仲間、同僚、同志、戦友」です。

なので、意味としては「足並み揃えて行進しよう、同志よ」曲調から言って、「みんなで調子を合わせて楽しく行こうよ」

ということになるでしょうか。

フランス大使館公式ツイッター

これについては、フランス大使館から公式ツイッターが発信されています。

でもあの『オ・パッキャマラード』という部分、一体何のことだと思いますか?実は「行進せよ、同志!」(Au pas camarade ) という意味です!

このツイートによると「au pas」は 「行進せよ」だ、という解釈ですが、「行進」には「足並みを揃える」「歩調を整える」という意味がもともと含まれているんですね。一人で行進するときにも歩調を整えるのだと思います。ただ普通に歩くことは「行進」とは言いません。

 

フランス語プチ講座

「オパ」「オ」「パ」に分かれます。「オ」は、さらに、「ア」a「ル」leに分解されます。

「ア」は、英語で言う「at」とか「in」です。

「ル」は定冠詞で、英語では「the」です。

 

フランス語では、この「ア」「ル」が並ぶと、なぜか2つが合体してしまって、全く違う言葉auとなり、音も「エーユー」でもなく「アウ」でもなく「オ」の音になるのです。英語では「at the」です。

 

「パ」「pas」(sは読みません)は「歩調」、英語では「step」です。

なので、「オ・パ」「au pas」は、英語では「at the step」「ステップを合わせて」「調子を合わせて」となります。


さらに、フランス語では、前の単語の最後の子音と、後ろの単語の最初の母音がくっついて発音されがちです。

なので、この部分の歌詞は、繰り返すことによって、前の単語の「カマラッド」「ド」と、次の単語の先頭の「オ」がくっつくので、「オ・パ・カマラ(ド+オ)パ・カマラ(ド+オ)パ・オ・パオ・パ」と発音されます。

 

というわけで、ふつうに聞いていると、

「オ・パ  カマラドーパ  カマラドーパ  オ・パ  オ・パ」と聞こえます。

もともとはフランス軍の行進曲

実は、もともとのこの曲の原曲は、フランス軍の軍歌、行進曲だったのです。

それもナポレオン軍の軍歌だというので、年季が入っています。

そして、<Refrainくりかえし>の部分が、そのまま、

「オ・パ  カマラドーパ  カマラドーパ  オ・パ  オ・パ」

になっています。

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J'aime l'oignon frit à l'huile,

オレはオニオンリングが好きさ
J'aime l'oignon car il est bon.

オレはオニオンリングが好きさ、うまいからね
J'aime l'oignon frit à l'huile,

オレはオニオンリングが好きさ
J'aime l'oignon, j'aime l'oignon.

オレはオニオンが好き、オレはオニオンが好き

 

<Refrain:くりかえし部分>

Au pas camarade, au pas camarade,

みんなで足をそろえよう、みんなで足をそろえよう
Au pas, au pas, au pas,

そろえて、そろえて、そろえて
Au pas camarade, au pas camarade,

みんなで足をそろえよう、みんなで足をそろえよう
Au pas, au pas, au pas.

そろえて、そろえて、そろえて

 

Un seul oignon frit à l'huile,

たったひとつのオニオンリング
Un seul oignon nous change en Lion,

たったひとつのオニオンリングが我々をライオンに変える
Un seul oignon frit à l'huile,

たったひとつのオニオンリング
Un seul oignon un seul oignon

たったひとつのオニオン、たったひとつのオニオン

 

<Refrainくりかえし>

 

Mais pas d'oignons aux Autrichiens,

だけど、オーストリア人にはオニオンはあげない
Non pas d'oignons à tous ces chiens,

いいや、こんな犬たちにはオニオンはあげないMais pas d'oignons aux Autrichiens,
Non pas d'oignons, non pas d'oignons

いいや、オニオンはあげない、いいやオニオンはあげない

 

<Refrainくりかえし>

 

Aimons l'oignon frit à l'huile,

オニオンリングが好きになろう
Aimons l'oignon car il est bon,

オニオンが好きになろう、うまいから
Aimons l'oignon frit à l'huile,

オニオンリングが好きになろう
Aimons l'oignon, aimons l'oignon

オニオンが好きになろう、オニオンが好きになろう

Refrainくりかえし

wikiより

 

「オレは玉ねぎが大好きさ、特に油で揚げたオニオンリングが大好き。オーストリア人になんかやるもんか。」

と、至ってストレートで単純な、幼稚とも取れる歌詞です。

なお、「オーストリア人」は「Autrichiens」「オトリシアン」で、「犬」はフランス語で「chien」「シアン」なので、韻を踏んで遊んでいるわけですね。

また、「Non pas d'oignons」の「pas」は「足の歩調」の「pas」と全く同じ音で全く同じスペルですが、ここでは全く違う否定の意味の「pas」が使われています。

もちろん、これも意図した使い方だと思われます。「パ」という音も発音しやすい音です。

これはあくまでも過酷な環境でも突き進む時に歌う軍歌、行進曲なので、たとえ兵士たちが疲れ切っていたとしても歌いやすくて、覚えやすい、元気の出る歌になるように、発音しやすく、「単純」で「幼稚」で、士気を高める歌詞になっているのだと思います。

 

ここにある「フランス軍行進曲版」では歌詞として「オン」の発音が多用されていますが、これもまた韻を踏んで気持ちよく、調子よく歌えるように工夫されているというわけです。

 

「オン」の音も、疲れていても、口をあまり動かさずに、口が自然に少しだけ開いた状態で発音できるので多用されているんですね。

 

なお、「オニョン」は、「タマネギ」のことで、「oignon」と書きますが、最近、フランスの国語機関が公式に「oignon」から「i」を抜いた「ognon」という表記に変更すると発表しました。

「oi」は、普通に発音すると「オワ」となるので、(トワ・エ・モワの「オワ」です)「オワニョン」と発音すべきところ、例外として「オ」という発音が認められていたのを、今回、「i」をカットして、表記を実際の音「オニョン」に合わせた、というわけですね。

作詞作曲者不明、詠(よ)み人知らず

さて、この曲、作詞者も作曲者も不明です。

農家の稲刈り歌、あるいは労働歌のように、自然発生的に生まれたものかも知れません。

あちこちの戦地で、あちこちの部隊で、いくつも替え歌のような歌が作られたであろうことは容易に想像できますね。

 

その中でも「オパキャマラッド」の部分は、どのバージョンでも共通して使われたのだろうと思います。

行進曲の目的は、要するに足並みをそろえて行軍することなので、この「オパキャマラッド」部分さえ入れておけば、行進曲としてサマになったわけですね。

それに、行進曲としても、たくさんのバージョンがあったほうが、長丁場の行軍には飽きないのでむしろ好都合です。

 

クラリネットをこわしちゃった」も実は、そんなふうに自然発生的に作られて、実際に歌われていた、いくつかの行進曲のバージョンの一つ、替え歌の一つではなかったかと想像します。

実際、行進には軍楽隊がついていることがあります。軍楽隊は鼓笛隊と言うくらいですから最低、基本となる「太鼓」と「笛」があれば成り立ちます。

鼓笛隊

鼓笛隊

なので、「笛」であるクラリネットは行進の時に太鼓と並んで重要な楽器の1つです。行進するときによく聞いていて、親しみのあるクラリネットそのものをネタにした歌が出来ても不思議ではありません。

ちなみに、日本のチンドン屋さんも、打楽器奏者と笛奏者がいますので、一種の「軍楽隊」と言えるかも。特命「大売り出し大作戦」遂行中ですね。

こわいパパの謎が解けた

そのまま軍歌として通用する

そして、この童謡版の「クラリネットをこわしちゃった」の歌詞の内容は、実は、そっくりそのまま軍歌、行進曲として通用するのです。

 

「ドの音が出ない」は、フランス語では「J’ai perdu le DO」(ジェ・ペルデュ・ル・ド)となり、「perdu」は「失った、なくした」という意味なので、直訳としては「私はドを失った」となります。

ほんとうはこわい歌詞

「こわいパパ」は実は、行軍を指揮する、鬼よりこわい「部隊長」なのです。

クラリネットは行軍している「部隊」です。

クラリネットが出す一つひとつの音」は、部隊の中の「一人ひとりの隊員」です。

 

「ド」の音が出ない、「ド」の隊員が失われたのです。とても大事にしていたのに。

部隊長は言うでしょう、「おいおい、どうした」

だから、足並みそろえて行進するのです。

 

「レ」の音が出ない、「レ」の隊員が失なわれたのです。とても大事にしていたのに。

部隊長は言うでしょう、「おいおい、どうした」

だから、足並みそろえて行進するのです。

 

そうして、「ド」の音も、「レ」の音も、「ミ」の音も、全部の音が出なくなってしまいます。

全ての隊員を失ったのです。とても大事にしていたのに。

 

それでも部隊長は言うのです。「おいおい、どうした」

だから、足並みそろえて行進するのです。

 

...こわいですね〜

こうやって読んでみると、隊員が一人ずついなくなって行き、最後には隊員が誰もいなくなったのに、隊長の声だけが虚空に響いているという、いかにもフランスのシュールな感じが出ていて、とてもブラックでこわい歌に見えます。

実際の行軍では「かけ合い」が

しかしながら、これが行軍の時に実際に兵士たちによって歌われていたとなると、そんな意味ではあまりにこわすぎます。

「みんなで心をひとつに合わせておかないとやられてしまうぞ、さあ、仲間を一人も失わないように足並みを揃えよう。全部の音がしっかり揃っていてこそのクラリネットだぞ。みんなで調子を合わせよう」

と、兵士たち自身の気分を鼓舞して、士気を上げるために歌っていたのかもしれません。

まあ、実際には、「おいおい、の君、歩調がみんなと合ってないよ」くらいの意味なんでしょうね。

そして、部隊長の「おいおい、どうした」の声は、実際に兵士たちと一緒に歩いて行進しながら行軍を指揮している上官が、実際に怖そうな声で、兵士たちに気合を入れるように答えていた声なのだろうと思います。

兵士たちみんなで歌っている中での歌詞、「上官に知られたら、彼は言うだろう」という、兵士たちから上官に向けての今で言う「フリ」に答える形で、上官が「おいおい、どうした」と答えていたのでしょう。

現在の歌詞では「彼は歌うだろう」とも言っているので、実際に部隊長に歌わせたのかも知れません。陽気な部隊長なら誘いに乗って、全く違う歌を歌い出した可能性も。

上官と兵士たちの間での、キャッチボールのような感じでかけ合いをすることで、上官と兵士の間の団結もまた、確認していたのでしょうね。

輪唱もできる

それに、この曲の1行目と2行目は同じ歌詞とメロディーで、音程が3度高くなるだけなので、たとえば「輪唱」の始まりとしてはうってつけの構造になっています。

あとから歌い出したパートはそのまま3度下のコーラスラインを歌って行けるので、最初に歌い出したパートと簡単にハモれるわけですね。

このへんは、軍隊という大人数のメリットを生かして、さまざまな形態で合唱できるので、いろいろ役割分担など工夫して、むしろ楽しく歌っていたのではないかと想像します。

アメリ海兵隊の「ミリタリーケイデンス

行進中にみんなで歌う、というのは軍隊では普通にあることのようで、アメリ海兵隊の隊列を組んだランニング訓練が有名ですね。

ミリタリーケイデンスと言うそうです。

ケイデンスは「cadence」で、やはり「歩調」のことです。フランス語の発音で「カダンス」、イタリア語では「カデンツァ」。

歩く「歩調」から、音楽用語の「拍子」という意味にまで広がりますね。

現在でもフランスでは、学校の行事で野山を子どもたちみんなで揃って歩く時にはこの歌を歌うそうです。遠足といえども、脱落者は出したくありませんからね。

今回のお話

今回は、現在は童謡になっている「クラリネットをこわしちゃった」の元歌を探ってみると、なんとフランス・ナポレオン軍の「みんなで調子を合わせよう」という行進曲に行き着いた、というお話でした。

それにしても「オ・パ・カマラッド」のフレーズは脳天気で楽しい曲に聞こえますね。

これが軍歌だったのですから、びっくりです。

もっとも、当時のナポレオン軍はヨーロッパの広範囲を席巻するほど強かったのですが、それは、過酷でつらい行軍も、こんな脳天気で楽しい雰囲気にしてしまう余裕があったからこそ、かも知れません。

 

どんな時にも、まわりと調子を合わせる余裕を持ちたいものです。