一音九九楽

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いちおんくくらく★ひとつの音からたくさんの楽しいこと

エールフランスCM曲の「華麗なる賭け(風のささやき)」元ネタはモーツァルトなの?

 

エールフランスのCM再開

久しぶりに、エールフランスのCMが流れ出しましたね。

コロナ禍が過ぎて、海外旅行にお出かけできますよ、さあ、エールフランスの飛行機に乗ってどんどん海外旅行してくださいね、ということなのでしょう。

 

エールフランス Taking elegance to new heights.

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主人公の女性が着ている長〜いドレスの赤い色は、フランスを象徴している色なんですね。

「フランスの色を世界中に広めて、エレガントさを新しい高みに引き上げます」というコンセプトのCMです。

エッフェル塔の階段を登り切ったてっぺんで、赤いドレスのすそを空中に投げ上げると、それが遠景でエールフランスのマークになる、というしゃれた演出になっています。

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/c/c8/F-GUGG_2_A318-111_Air_France_FRA_29JUN13_%289191496920%29.jpg

Wikiより

CM曲はミシェル・ルグラン(Michel Legrand)作曲

このCMのバックに流れているのは、ジュリエット・アルマネ(Juliette Armanet)が歌う"Les Moulins de mon coeur"(私の心の風車)。

「『私の』心の風車」(フランス語版)

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この曲は1968年のアメリカ映画「華麗なる賭け」の、もともとは英語の歌詞だったミシェル・ルグランによる主題歌「風のささやき」に、フランス語の歌詞を付けたものです。

フランス語の歌詞と和訳

歌詞はこちらです。こちらのフランス語版の曲タイトルは「私の心の風車」(Les moulins de mon coeur)。

lapineagile.blog.fc2.com

「『あなたの』心の風車」(原曲英語版)

元歌はこちら、「ノエル・ハリスン」の歌です。

こちらの曲タイトルは「あなたの心の風車」(The Windmills of Your Mind )です。

「ノエル・ハリスン」は、「マイ・フェア・レディ」のヒギンズ教授、「ドリトル先生不思議な旅」のドリトル先生で有名な、「レックス・ハリスン」のお子さんです。

 

The Windmills of Your Mind - Noel Harrison

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「Affair」の二重の意味

映画は1968年の「華麗なる賭け( The Thomas Crown Affair )。

eiga.com

スティーヴ・マックィーン演じる、大富豪で実業家でスポーツマンでもある「トーマス・クラウン」氏が、なんと「ヒマつぶし」で計画する銀行強盗についての映画なのですが、「Affair」という言葉には、犯罪に関する「事件」という本来の意味のほかに、恋愛上の「出来事」という意味もあって、こちらは「トーマス・クラウン」氏と共演のフェイ・ダナウェイとの恋愛模様を表している、というダブル・ミーニングになっているんですね。

つまり、「トーマス・クラウン刑事事件」についての映画であると同時に「トーマス・クラウンの恋の出来事」を描く映画でもあるわけです。

空を飛ぶ場面で流れる曲

この曲は、映画の中で、スティーヴ・マックィーンが乗る、動力のついていない、上昇気流という風だけが頼りのグライダーが、上空でゆっくり旋回しながら飛んでいるのを、今までの盗難事件について調査している保険調査員のフェイ・ダナウェイが地上から見上げている、という場面で流れる曲です。

グライダー

グライダーという「飛行機」が飛んでいる場面で流れるので、「飛行機」の会社である「エール・フランス」が採用した、ということですね。

なお、この曲はこの年の「アカデミー主題歌賞」を受賞しています。

オスカー

また、1999年には「トーマス・クラウン・アフェア」としてリメイクされていて、その時の主題歌「風のささやき」は「スティング」が歌っています。

英語の歌詞

原語である英語版の歌詞はこちらです。

www.songfacts.com

英語の歌詞の和訳

英語歌詞の和訳はこちらに。

jazzsong.la.coocan.jp

プチ語学講座

フランス語で風車は”Moulin”(ムーラン)です。
「ムーラン・ルージュ(赤い風車)」の「ムーラン」ですね。


一方、英語で風車は「ペッパー・ミル」ならぬ、”Windmill”「ウィンド・ミル」です。
「ミル」は「粉ひき」という意味ですね。


なので、「ペッパー・ミル」は「コショウひき」、「ウィンド・ミル」は、「風による粉ひき」つまり「風車」ということになります。

英語版と仏語版で、タイトルが違うのは

さて、英語版の曲名では「あなたの心の風車」で、フランス語版では「私の心の風車」となっていて、全く違っているのは何故か。

歌詞を見比べてみると、フランス語版は、原曲版の英語歌詞をそのまま翻訳したわけではなく、それを参考にしながらも、また別のものとして作られた歌詞なんですね。

英語版にはない「ノルウェーの森」なんて言葉も入っています。ビートルズの1965年の曲「ノルウェーの森」を意識したのかもしれません。

なので、フランス語版は、「もともとの歌詞ではないんですよ、別の歌詞にしてあるんですよ」ということをさりげなく示すために「あなた」を「私」に変えたのだと思われます。

風車

原曲の方の歌詞については、主演のスティーブ・マックィーンが、犯罪を計画している時の「不安定な気持ち」を表すような曲が欲しいという要望を出したそうで、色々な丸いものを挙げながら、終わりが始まりにつながって堂々巡りして行く、というなかなか難解で哲学的な歌詞になっています。

一方、フランス語歌詞の方は、英語版の方で出てくる物を取り上げながらも、それは恋人が自分の恋心をざわつかせる様子を表現するものとして描いていて、その恋人との楽しいあれやこれやを思い出してセンチメンタルになる、という、情緒的で分かりやすい「失恋ソング」になっているんですね。

作曲者ミシェル・ルグラン弾き語り

こちらはこの曲の作曲者、ミシェル・ルグラン自身のピアノ弾き語りです。

哲学的な英語歌詞よりも、恋愛に情熱的なフランス語歌詞の方が気持ちが入るみたいですね。

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「ブレイクダンス」の「ウィンド・ミル」

「ブレイクダンス(Break Dancing)」、最近では「ブレイキン(Breaikin')」と呼ぶらしいですが、その代表的な技の一つに「ウィンド・ミル」があります。

こちらは足が風車のように回転するから、という理由で名前が付いたんですね。

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モーツァルト元ネタ説

ところで、この「風のささやき」を作曲するにあたって、ミシェル・ルグランはモーツァルトの「ヴァイオリンとヴィオラのための協奏交響曲変ホ長調」の第2楽章アンダンテ(2.Andante)を参考にした、という説があるので調べてみたのですが、本人の発言は確認できませんでした。

曲を聞いてみると、確かに、似ている感じはあるんですけどね。

微妙です。

下にご紹介した映像は、ジョージ・セル指揮、クリーブランド・オーケストラの演奏です。第二楽章から聞けるようにセットしておきました。

モーツァルト ヴァイオリンとヴィオラのための協奏交響曲 K. 364

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今回のお話

今回はエールフランスのCMに使われている曲は映画「華麗なる賭け」の挿入曲「風のささやき」のフランス語版で、オリジナルの英語版とは内容の違う歌詞だった、ということと、この曲の元ネタがモーツァルトの曲だという説があることをご紹介しました。

モーツァルトを参考にしたかどうかはともかくも、この曲のバロック調のメロディーが、空を飛ぶ、あるいは風車が回る、という、爽やかな風を感じさせる効果を生んでいることは間違いないですね。