エルヴィス・プレスリーの「It's Now or Never(今でしょ!)」
画面は、西ドイツでの兵役を除隊になって、帰国した時の映像です。
elvis presley - its now or never (1960)
歌が上手い上に、声がよく出ていますね。「ベルカント」という唱法だそうです。最後に声を1オクターブ張り上げて終わるのが、ドラマチックで良いですね。
歌詞はこちらです。英語歌詞の下の「日本語に翻訳」という「文字」をクリックすると、翻訳文がみられます。「いつ仲良くしてくれるの?今でしょ」という歌ですね。
エルヴィスの入隊と除隊
エルヴィスは、1958年1月20日にアメリカ陸軍への徴兵通知を受けて、映画撮影中だったので、入隊をちょっと延期したものの、兵役免除の特例措置は受けることなく、一般人と変わらない普通の兵士として、西ドイツのアメリカ陸軍基地で2年間、軍務についていました。
1960年3月5日に兵役の任期満了になって除隊となり、吹雪の中、アメリカ、ニュージャージー州の空軍基地に79人の兵士(GI・ジーアイ)たちとともに米軍空軍機で帰国しました。
映像はその時のものですね。
ちなみに除隊時にはエルヴィスは「軍曹」に昇進していました。
兵役中に母親が死去
映像の中に、ギターの形をしたウェルカムバックケーキが出てきますが、エルヴィスの誕生日が1月8日で、入隊中は祝えなかった、遅い誕生日お祝い、という意味もあったでしょうか。
ハットをかぶって、偉そうに指示している人物は、エルヴィスのマネージャーの「パーカー大佐」です。なお「大佐」は本物の大佐ではなく、選挙応援をして当選した市長からもらった名誉称号です。かなりのやり手だったようですが、かなりの胡散臭(うさんくさ)さがあったようです。
実はエルヴィスが兵役に就いている時に、母親が46歳という若さで亡くなっています。
実家に立ち寄っても、あまり浮かない表情なのも、そのせいかも知れません。
その事がエルヴィスの人生に暗い影を落とし始めたきっかけになっている、という説もあります。
デビューのきっかけも、母親の誕生日のためにおこづかいで録音したレコードだった、というくらい母親思いだったようですから。
帰国第2弾のヒット曲
帰国後、エルヴィスは立て続けにヒットを飛ばしますが、この曲は帰国後2曲目のヒットになります。1曲目のヒットは「本命はお前だ(Stuck on You)」で、それに続く2曲目のヒットとなりましたが、イギリスではトラブルのため、発売が伸びて3曲目のヒット、ということになりました。
著作権問題で引っかかる
エルヴィスがこの曲を録音するに至ったきっかけは、西ドイツで兵役に就いている間に、オーソレミオを歌って有名だったイタリアのマリオ・ランツァが亡くなったこと、それにラジオで、 1949年にアメリカの歌手トニー・マーティンによる、やはり「オーソレミオ」に英語歌詞を付けた「 There's No Tomorrow」を聞いたこと、でした。
こちらはマリオ・ランツァの「オーソレミオ」です。映画の中で歌う、というスタイルはエルヴィスと同じですね。
マリオ・ランツァ「O Sole Mio」
歌詞はこちらで見られます。
そして、こちらがエルヴィスがラジオで聞いた 1949年のトニー・マーティンによる、「 There's No Tomorrow」です。
Tony Martin - There's No Tomorrow
歌詞はこちらです。英語歌詞の下の「日本語に翻訳」という「文字」をクリックすると、翻訳文が見られます。こちらも「愛し合うのは今しかない」という歌ですね。
20〜30分で書き上げられた歌詞
この二つの事からインスピレーションを得たエルヴィスは、ドイツに来ていた音楽出版社のスタッフ、ビアンストック氏に、そのアイディアを話します。音楽出版社のスタッフ、ビアンストック氏は急遽、ニューヨークの音楽出版社に戻り、ちょうどその時オフィスに居合わせた「アーロン・シュローダー」と「ウォーリー・ゴールド」に作詞を頼みます(その時オフィスにはこの2人しかいなかった)。
二人は20〜30分で歌詞を書き上げました。
それが全米、全英ヒットチャートの1位を、数週にわたって独走する大ヒットとなりました。
歌詞内容比較
「It's Now or Never」と「 There's No Tomorrow」がちょっと、と言うより、かなり歌詞の内容が似ている、ということで、揉めたようなんですね。両方ともメロディーは「オーソレミオ」なわけで全く同じなので。
両曲の歌詞を読み比べてみると、確かに、前半で特に、
hold me tight
surrender
tonight
tomorrow
kiss me
love
といった単語まで共通しています。
「パクリ疑惑」が出たとしても、不思議ではない感じですが、後半からはまるでオリジナルなので、共通する単語はないみたいですね。
なので、ちょっと引っかかって発売まで時間がかかったものの、数ヶ月後にはOKが出て発売となって大ヒット、という成り行きは、ちょうど良い落とし所だったかも知れません。
今回のお話
今回は、エルヴィス・プレスリーの「It's Now or Never(今でしょ!)」は「オーソレミオ」が原曲だった事が分かった、ということに加えて、似たような歌詞のバージョンがその10年前にあって、実は「It's Now or Never(今でしょ!)」は、それを参考にしていたという事も判明した、というお話でした。
プレスリーの「組み合わせのインスピレーション」が冴えていた、という事なんでしょうね。
ところで、エンジェルスの大谷翔平くんは、ちょっとプレスリーに似てませんか?