一音九九楽

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いちおんくくらく★ひとつの音からたくさんの楽しいこと

「時々、たまに」だけじゃない「ナウ・アンド・ゼン」の意味とは

ビートルズの新曲

ジョン・レノン作詞作曲のビートルズの新曲が発売されました。

AI技術を使ってジョン・レノンのデモテープからピアノなどの音を消してジョン・レノンの歌声だけを分離抽出。

その歌声にポールとリンゴがコーラスやベース、ドラムを重ねて行ったというわけです。

印象的なスライドギターの音は、てっきりジョージの演奏によるものだと思ったら、ポールがジョージのスタイルで弾いているのでした。

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とは言え、まるで魔法のようですが、ジョージが演奏したギターの音もちゃんと入っていて、これは普通に、生前のジョージがこの曲のためにギターを弾いている音を使っているんですね。

実はこの曲は以前にも一度、ジョン以外の3人でレコードにしようと試みたことがあって、その時に録音したジョージの演奏をそのまま使っているのでした。

その時の、50代のポールとジョージがギターを弾いている場面も、「ナウ・アンド・ゼン」のミュージックビデオに出てきますね。

その当時は、今回はAIで消すことの出来たピアノの音などのジョンの歌声以外の音がどうしても消せなくて、レコード化を断念していたのでした。

技術の進歩はありがたいもので、ジョージの演奏もまるでリアルタイムに参加しているように聞こえますし、見えます。

私としては、この曲は当分YouTubeにも出て来ないだろうから、敬意を表して、ちゃんとデジタル版を買おうかな、と思いました。

Now And Then

Now And Then

  • ビートルズ
  • ロック
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

ところがなんと、もうYouTubeで聴くことができるのでした。

さらに驚いたことに、ミュージックビデオもYouTubeで見られるのです。

ミュージックビデオの映像にもAIが活用されている

ミュージックビデオもよく出来ていて、こちらでも生成AIを使っているんですね。ビートルズの面々の過去と現在が融合します。

まるで過去のジョンもジョージも、そして現在のポールもリンゴも今、一緒にいるような感覚に襲われます。

エンディングも秀逸ですね。ビートルズの子供時代の写真が出てきて、ビートルズに熱狂するティーンエージャーに溶け込み、ビートルズ自体は消えて行く、さあ(Now)、次代(Then)のビートルズは、今、この曲を聞いているティーンエージャーの君たちだよ、と言っているように、未来に向けたメッセージのように感じました。

The Beatles - Now And Then (Official Music Video)

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このミュージックビデオで材料が多用されているのは「ハロー・グッバイ」のミュージックビデオです。そのメイキング映像、リハーサル風景も活用されてますね。

The Beatles - Hello, Goodbye

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この「ハロー・グッバイ」でのエンディング、いったん音楽が終わって礼をしてから、エンディングの演奏を再開するのですが、するとなぜか、突如現れたハワイアンふうな女性たちの派手なダンスが始まって、お祭り騒ぎのうちに幕が降りる、という演出になっています。

このビートルズの底抜けに明るく、馬鹿馬鹿しくも派手派手な演出は、日本ではサザンオールスターズに引き継がれているような気がします。

また、当時、ジョンのキリスト発言の影響でライブツアーをやめざるを得なくなり、スタジオ録音に専念してしまったことに対する批判もありましたが、それに対する答えなのでしょう、曲の途中でデビュー時のエリなしジャケットのコスチュームを着て、「時代は変わって、僕たちも進化して新しい僕たちになっているのに、君は僕たちにいつまでもこの姿をした、昔のままのビートルズでいろって言うのかい?」というジェスチャーは、「君はグッバイと言うけど何故だかわからない、僕はハローと言うよ」という歌詞と呼応して、彼らの姿勢を明確なメッセージとして伝えていると思います。

ビートルズのダブルミーニング

「ナウ・アンド・ゼン」は「時々、たまに」と言う意味の成句ですが、元々の由来として「ナウ」は「今」で、「ゼン」は「あの時」という意味ももちろんあるので、「現在」と「あの時」を結びつける、「今とあの頃」というニュアンスがあります。

つまり、このミュージックビデオのコンセプト、「過去と現在の混在」、という意味も表しています。さらに、「ゼン」には「その時には」という「未来」を指す意味もあるので、次世代に呼びかける歌にもなっている、と考えれば、もはやトリプルミーニングであるとも言えますね。

もともと、ビートルズの歌詞には、こういった二重の意味を持った、ダブルミーニングの歌詞が多いようです。

「Lucy In the Sky with Diamonds」 と「LSD」

例えば、「ルーシー・イン・ザ・スカイ・ウィズ・ダイヤモンド」(Lucy In the Sky with Diamonds) の頭文字をつなげると「LSD」になる、という説がありました。

「黄色や緑のセロファンの花が背丈よりも高くそびえている」といった、当時のサイケデリックな流行りを地で行く歌詞の内容も「LSD」の作用による幻覚を歌ったものではないかと、取り沙汰されました。

聞かれたジョンは、「息子のジュリアンが保育園で描いて見せてくれた"Lucy – in the sky with diamonds(ルーシー・ダイヤモンドと一緒に空にいる)".というタイトルの絵だよ、ジュリアンが通ってる保育園に好きな女の子ルーシーがいて、そのルーシーがダイヤモンドと一緒に空にいるんだってさ」と説明しました。

後日談

この話には後日談があって、当時3歳だったジュリアンが好きだった当時4歳のルーシー・オドネル(Lucy O'Donnell)は難病にかかり、46歳で亡くなりました。

ミュージシャンになっていたジュリアンは、その後「ルーシー」という曲も作りました。
ルーシーさんはジュリアンが描いた絵のように空に昇ってダイヤモンドのように輝く星になったのかも知れません。

3歳のジュリアンが描いた、4歳のルーシーが空の中にダイヤモンドと一緒にいる絵

https://www.beatleswiki.com/wiki/images/6/61/Lucy-in-the-Sky.jpg
BEATLESwikiより

意図したものかどうかは別にして、歌詞が普遍的なものになるように、ということは意識していたらしく、そのせいか、歌詞などを深読みするファンも多かったのです。

それを知って、ビートルズも面白がって、わざと意味ありげな歌詞を作る、という面もあったようですね。

「ナウ・アンド・ゼン」のダブルミーニング

さて、この曲は、ジョンがヨーコに対して歌った曲のように見えますが、ダブルミーニング好きのビートルズファンとしては、実はこれはジョンがポールに対して歌った曲なのではないか、解散したビートルズメンバーに対して歌っているのではないか、ジョンはポールと、よりを戻したいと思っていたのではないか、とも読めるのですね。

歌詞の内容としては、こんな感じでしょうか。

君がいなくなって寂しい

僕の成功は君のおかげだ

君がいてくれればと思うけど

君は去ったらもう戻らないことは分かっている

でももしまた始められるのなら

僕は間違いなく君を愛するだろう

そして、さらに、ジョンが亡くなって、まさに去ってしまった今となっては、ポールもジョンに対して、全く同じ気持ち、こんな気持を持っているんだろうと思います。だからこそ、こうやってビートルズとしての、ビートルズのメンバー全員が関わった「ビートルズの新曲」に仕上げた。

なので、この曲はジョンからヨーコへのラブソングであると同時に、ジョンからポールへのラブソングでもあり、ジョンからビートルズへのラブソングとも解釈できます。

さらには、実はポールからジョンへのラブソングととらえても全くおかしくなく、リンゴやジョージからジョンへのラブソングという意味もあるかも知れません。

そしてさらに言えば、ビートルズから私たちへのラブソングであり、私たちからのビートルズへのラブソングでもあるのでしょう。

今回のお話

今回は、1969年「ジョンとヨーコのバラード」以来、なんと54年ぶりに全英シングルヒットチャート1位を取ったビートルズの新曲、「ナウ・アンド・ゼン」について、ちょっと考えてみました。

この意味でも、まさに「ナウ」(今)と「ゼン」(あの時)なんですね。

そして、最近明らかになった、さらに不思議な偶然がありました。

amass.jp

ビートルズ最後の曲「ナウ・アンド・ゼン」はシングルしてはビートルズ最初の曲「ラブ・ミー・ドゥ」と両A面でカップリングされました。そのシングルの裏面のジャケットの写真は、生前のジョージがずっと昔に気に入って買っていたという時計で、そこには何と「NOW」と「THEN」の文字が入っていたのでした。

 

さて、それでは。

 

“Now And Then” Credits:
Produced by Paul McCartney, Giles Martin
Additional Production: Jeff Lynne
Vocals: John Lennon, Paul McCartney
Backing Vocals: John Lennon, Paul McCartney, George Harrison, Ringo Starr
Guitars: George Harrison
Guitars, Bass, Piano, Electric Harpsichord, Shaker: Paul McCartney
Drums, Tambourine, Shaker: Ringo Starr