一音九九楽

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いちおんくくらく★ひとつの音からたくさんの楽しいこと

レイ・チャールズの「愛さずにはいられない」の、歌の途中で呼びかける「子どもたち」とは誰のこと?

 

レイ・チャールズは「愛さずにはいられない」の歌の途中で、本来の歌詞にはない、[Sing the song children!]「歌を歌ってよ、子どもたち」、という呼びかけをしているのですが、その「子どもたち」とは誰のこと?という疑問が私の脳裏に浮か日ました。

それは、レイ・チャールズとコーラスグループによる「旅立てジャック(Hit the Road Jack)」のライブ映像を見たことがきっかけでした。

「旅立てジャック(Hit the Road Jack)」

レイ・チャールズの「旅立てジャック(Hit the Road Jack)」これは1961年のヒットなので、私は小学校6年生の頃でしたか、リアルタイムで聞いた覚えがあります。

もちろん子どもなので内容など分かりませんが、その繰り返しのフレーズ「モーノーモーノーモーノーモー」と聞こえた不思議なフレーズに、何やら魔術的な、呪文のようなものを感じていました。

愛想を尽かされたジャック

「旅立て」とは穏やかな言い方ですが、実質的には「出て行け」というキツい言い方ですね。

女性が愛想を尽かした男性に向かって「出てけ!」と言い放っている言葉です。

リフレインの部分はこうですね。

Hit the road Jack 
出て行きなジャック

And don't you come back
んで、あんた、もう帰って来るんじゃないよ

No more No more No more No more
もう、もう、もう、もう


Hit the road Jack
 出て行きなジャック

and don't you come back
んで、あんた、帰って来るんじゃないよ

No more
もう二度と

 

作詞作曲:Percy Mayfield

 

youtu.be

 

そして、私が見ていたのはこちらの映像なのですが、見ていてちょっと引っかかる事がありました。
やたらカメラが、女性コーラスグループの左から2番目の女性を映すんですね。

そもそもこの歌は、「ジャック」というだらしない男に愛想を尽かした女性が「出て行け!もうもうもうもう戻って来るな!」と絶縁状を叩き付けている歌で、言われている「ジャック」の方は何とか女性のご機嫌を取ろうと泣き言を並べているばかり、という構成の曲です。

コーラスの一人とただならぬ仲に

調べてみると、何とこの時点で奥さんがいるレイチャールズと、この左から2番目の女性「マージー・ヘンドリックス」はただならぬ関係であって、二人の間には子どもまで出来ているのでした。


マージー・ヘンドリックスさんは「レイ・チャールズ」に、奥さんと離婚して自分と子供と一緒に暮らしてほしいと申し出ましたが、「レイ・チャールズ」は拒否。

どうやらそのあたりの事情は世間の知るところらしく、それでカメラが意図的に彼女をクローズアップして撮影していたんですね。

以心伝心の掛け合い

クローズアップのおかげで、歌っている時のマージー・ヘンドリックスさんと「レイ・チャールズ」が、愛情に満ちた掛け合いをしていることが分かります。

「レイ・チャールズ」は、コーラスが「ジャック」という言葉を言うたびに「イェー」と応えています。もちろん、自分がジャックなんだ、という意識ですね。

歌詞はこちらで見られます。

www.madameriri.com

反対に「レイ・チャールズ」が女性に呼びかける部分の「君はこう言いたいんだろうな」とかの歌詞に対してマージー・ヘンドリックスさんも、コーラスとは別に「イェー(そうだよ)」とか「イェイェー(そのとおり)」とか、いちいち、もれなく応えているんですね。

小さな声なので聞き落としそうですが、歌詞の呼びかけ、というか、問いかけに必ず答えているのに気が付いた私は、感動してしまいました。

この二人の、以心伝心と言っても良い、気の合った掛け合いは、気持ちの良いものです。こんなに相性が良さそうなのになぜ、と思ってしまいますね。

10人の女性との間に12人の子供たち

しかし、さらに驚いたことに、「レイ・チャールズ」、結婚は2回ですが、「女性好き」というのでしょうか、奥さんを含めて10人の女性との間に12人の子供を作ったそうです。

それは相当な経験であって、ヒット曲「アンチェイン・マイハート(縛らないでくれよ)」なども、そんな事情を知ってから聞くと、実体験から出て来るリアリティーが感じられて、やるせないですね。

 

マージー・ヘンドリックスさんは、ビートルズもカバーしたキャロルキング作曲の曲「チェインズ」の本歌を歌ったガールズグループ「クッキーズ」の草創メンバーで、先ほどご紹介した「旅立てジャック」のバックコーラスグループ「レイレッツ」でも草創メンバーだったりと、ポップシーンで大活躍でしたが、そんな事情から麻薬びたりになってしまい、35歳という若さで亡くなったのは、何とも痛ましいことです。

「愛さずにいられない」の「子供達」への呼びかけ

そして、この「レイ・チャールズに子どもが12人」という事実を知って、私には納得が行った曲があります。

「愛さずにいられない」

です。

この曲の後半、終わりがけになってからのコーラスの直前に「レイ・チャールズ」が、ひとり言のようにぼそっと、

Sing a song Children.(歌を歌って、子どもたち)

と言うんですね。

曲はこちらです。

www.youtube.com

私はこの言葉は、そこのタイミングから感動のサビメロディーを歌い出す男女コーラスグループ「The Randy Van Horne Singers.」のメンバーたちに対して言っているものだと思っていましたが、そうとばかりは言えないようですね。

この言葉が、自分の12人の実の子供達に対しても言っている呼びかけなのだとすれば、だから「愛さずにいられない」のだ、というタイトルの理由が納得できる気がします。

むしろ、この曲自体を子どもたちに向けた曲、として歌っているのかも知れません。

「You」は、単数複数同型なので、「あなた」とも取れるし「あなたたち」とも読めるんですね。

オリジナルはカントリー

そして、この曲は、私はてっきりレイ・チャールズのオリジナルだと思っていたのですが、調べてみると、カントリーの「ドン・ギブソン」というシンガーソングライターが作詞作曲して歌った曲のカバーだったのでびっくりです。

「レイチャールズがカントリーを歌う」、というコンセプトアルバムが計画されて、そのレコード制作の際に、カントリーの名曲150曲の中からレイが24曲を選んで歌ったのです。

そのアルバム「モダン・サウンズ・イン・カントリー&ウエスタン・ミュージック(Modern Sounds in Country and Western Music)VOLUME 1&2」のうちの1曲が「愛さずにはいられない」で、これが大ヒットしたのでした。

愛さずにはいられない

愛さずにはいられない

  • レイ・チャールズ
  • R&B/ソウル
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

レイ・チャールズは、自身のオリジナルでない曲も、すっかり自分のものにしてしまうんですね。

「ブルース」は悔恨の情に形を与える

私は「ブルース」というものがどんなものなのか、今ひとつ分かっていませんが、私なりに聞いた感じでは、ブルースという分野の曲はあまり発展性のない、ひたすら暗いばかりの曲なんだなあという気がして、敬遠していました。

が、この「愛さずにいられない」を聞いて、あ〜そうなのか、そういうことだったのか、と、初めて納得して感動したのです。

私見ですが、「ブルース」は、誰もが抱えているであろう、今さらどうしようもない、取り返しのつかないことへの悔恨の情に、鮮やかな形を与えることが出来るんですね。

そして、そこに救いがあるような気がします。

そうすることによって、そこから次のステップに前向きに歩き出すことが出来るような気がします。

レイチャールズが「いとしのエリー」をカバー

そのレイ・チャールズがサザン・オールスターズの「いとしのエリー」をカバーしたのにもびっくりしました。
あのおちゃらけの桑田さんにもブルース魂があるってことか、と、それからはサザンの大見直し大会です。

サザンの曲を改めて聞いてみると、たしかに、「あの日を思い出す」パターンが多いような気がします。そこには切なさがいっぱいです。

パリの大時計

例えば「東京VICRORY」の歌詞には「時が止まったままのあの日の」という歌詞があり、それは元々は東日本大震災のことらしいのですが、歌詞なのでもちろん、個人的な解釈もできます。

ducksfly.hatenablog.com

私はこの部分の歌詞は「愛さずにいられない」の「 time has stood still 」(「時」はそこで静かに立ち止まったままなんだ)、と同じことを言っていると思いました。

「愛さずにはいられない」歌詞

さて、それでは「愛さずにはいられない」の歌詞はこちらです。

I Can't Stop Loving You
愛さずにはいられない

(I can't stop loving you)
(私はあなたを愛さずにはいられない)

I've made up my mind
私は心に決めたよ

To live in memories of the lonesome times
寂しい時代の思い出の中で生きて行こうと
 


(I can't stop wanting you)
(私はあなたを求めずにはいられない)

It's useless to say
なんてことを言ってもどうしようもないことさ

So I'll just live my life in dreams of yesterday.
だから、私はあの頃の夢のような思い出の中で、私の人生を生きていくだけだ

(Dreams of yesterday)
(夢のようなあの頃)
 


Those happy hours that we once knew.
あの幸福な時間を、私たちは一緒に過ごしたよね

Tho' long ago, they still make me blue
それは遠い昔のことなんだけど、今も私をブルーにさせる
 
They say that time heals a broken heart
人は言うんだ、傷ついた心は「時」が癒してくれるよって

But time has stood still since we've been apart
だけど、「時」はそこで静かに立ち止まったままなんだ、私たちが別れてからずっと

Hey!
ヘイ!

(I can't stop loving you)
(私はあなたを愛さずにはいられない)

I've made up my mind
私は心に決めた

To live in memories of the lonesome times
寂しい時代の思い出の中で生きて行くことを


 

(I can't stop wanting you)
(私はあなたを求めずにはいられない)

It's useless to say
なんて言ってももうどうしようもないことさ

So I'll just live my life in dreams of yesterdays.
だから、私はあの頃の夢のような思い出の中で、私の人生を生きていくだけだよ

 


(Those happy hours) Those happy hours
(あの幸福な時間を、)あの幸福な時間を、

(That we once knew) That we once knew
(私たちは一緒に過ごしたよね)私たちは一緒に過ごしたよね

(Tho' long ago) Tho' long ago
(それは遠い昔のことなんだけど、)それは遠い昔のことなんだけど、

(Still make me blue) Still make me blue
 (今も私をブルーにさせる) 今も私をブルーにさせる

 

(They say that time) They say that time
(人は言うんだ、「時」が)人は言うんだ、「時」が

(Heals a broken heart) Heals a broken heart
(傷ついた心を癒してくれるよって)傷ついた心を癒してくれるよって

(But time has stood still) Time has stood still
(だけど、「時」はそこで静かに立ち止まったままなんだ、)だけど、「時」はそこで静かに立ち止まったままなんだ、

(Since we've been apart) Since we've been apart
 (私たちが別れてからずっと) 私たちが別れてからずっと

 

(I can't stop loving you)
(あなたを愛さずにはいられない)

I said, I've made up my mind
言ったろう、私は心に決めたよ

To live in memories of the lonesome times
寂しい時代の思い出の中で生きて行くことを


[Sing the song children!]
【歌を歌ってよ、子どもたち! 】


(I can't stop wanting you)
(私はあなたを求めずにはいられない)

It's useless to say
なんてことを言ってももうどうしようもないことさ

So I'll just live my lifes of dreams of yesterdays.
だから、私はあの頃の私の夢の人生を生きていくだけだ

( of yesterdays)
(あの頃の)

 

songwriter:Don Gibson

 

歌を歌ってよ、子どもたち、と呼びかけている「歌」とは、もちろん、次の一行、


( I can't stop wanting you )
( 私はあなたを求めずにはいられない )

そして、冒頭の一行であり、タイトルでもある、

( I can't stop loving you )
( 私はあなたを愛さずにはいられない )

 

のことですね。

 

私の子どもたちよ、君たちも、私に対して、私と同じ気持ちでいてほしいんだ、というレイチャールズの切実な願望だと思います。

意外なことに、この部分のフレーズは、実はレイチャールズ自身は一回も歌ってません。

白鳥の親子

コーラスだけが歌っているのですが、自分では歌えないほどの思いがこもったフレーズ、言葉だ、ということなのかも知れません。

今回のお話

今回のお話は、レイチャールズの「旅立てジャック(Hit the Road Jack)」の映像から、彼が10人の女性との間に12人の子どもたちがいる、という事実を知った、というところから発展しました。

そこから、「愛さずにはいられない」の曲の途中で彼がつぶやく[Sing the song children!]「歌を歌ってよ、子どもたち」という言葉が、その12人の子どもたちに投げかけている言葉なのではないか、つまりはこの歌自体がレイチャールズとしては、その子どもたちに向けた曲ではないのか、というところに思い至った、というお話でした。

そして、この曲を通して、私がそれまで敬遠してきた「ブルース」というものの意味がようやく分かった(ような気がする)という、個人的な思わぬ収穫もあった、というお話でした。