- 現在、放送されている「ロイヤルブレッド」のCMはこちらです。
- なぜ、ロイヤルブレッドCMに「松たか子」さんで、なぜ「パッヘルベルのカノン」なのか
- ロイヤルブレッドが「ロイヤル」なわけ
- 「ロイヤル」とは、人を思いやること
- カノンとは「輪唱」のこと
- 今回のお話
現在、放送されている「ロイヤルブレッド」のCMはこちらです。
ロイヤルブレッドCM「確かな品質」篇【山崎製パン公式】
こちらで使われているCM曲は、小学校で習う「庭の千草」ですね。
原曲はアイルランドの「夏の名残りのバラ」という曲です。
Hayley Westenra & Méav - The Last Rose of Summer
もう一つはこちらのCMです。
ロイヤルブレッドCM「生がおいしいから」篇【山崎製パン公式】
こちらのピアノ曲は「グラズノーフのワルツ」のアレンジ曲です。
グラズノフ: 3つの小品,Op.42 3. ワルツ pf.林川崇:Hayashikawa,Takashi
このCMのちょっと前には、もう新しいCMに変わったので公式には削除されてしまいましたが、「パッヘルベルのカノン」がCM曲として使われていました。
以下は、その時に考察した記事です。
映像は公式なものではなく、ネット上に残っていたものです。
なぜ、ロイヤルブレッドCMに「松たか子」さんで、なぜ「パッヘルベルのカノン」なのか
Yamazaki ヤマザキ ロイヤルブレッド Royal Bread CM 「パンを楽しむ人へ」篇 30秒
ロイヤルブレッドCM「パンを楽しむ人へ」篇 / 松たか子【山崎製パン公式】では、たぶん、新婚であろう家庭の朝の1場面でしょうか、松たか子さんがピアノを弾き、旦那さんのほうがチェロを弾いているような音楽設定ですね。
音楽自体としては、こんなイメージでしょうか
実はこの「ロイヤルブレッド」のCMには「ロイヤル」なものが、たくさん揃っているので、見てみましょう。
ロイヤルブレッドが「ロイヤル」なわけ
まず、山崎製パンの食パン「ロイヤルブレッド」が、なぜ「ロイヤル」なのか。
それは、この食パンが「良質な上級小麦粉とバターを使用」したパンである、ということから来ていて、上級→上流階級→ハイソサイエティ→貴族→王家→ロイヤルという連想ですね。
松たか子さんの「ロイヤル」
そして、このCMに出演している松たか子さんはご存知の通り、お父さんは歌舞伎役者である二代目松本白鸚(まつもとはくおう)さん。
お兄さんも歌舞伎役者の十代目松本幸四郎(まつもとこうしろう)さんという、梨園伝統の名家の一員とあって、「ロイヤル」というイメージにピッタリの方です。
「梨園(りえん)」というのは、歌舞伎界のことを指しますが、そのもともとの由来も、中国の玄宗皇帝が、みずから音楽などを教えた芸術学校の名前「梨園」から来ているので、「ロイヤル」であることに間違いありません。
ちなみに、八代目市川染五郎(いちかわそめごろう)さんは、松たか子さんのお兄さんの息子さんです。
アナ雪の「ロイヤル」
さらに「王家」と言えば思い出させるのは、松たか子さんが「王女」エルサの声を担当して主題歌も歌った「アナと雪の女王」ですね。
こちらはアカデミー賞授賞式での、世界中のエルサたちに混じった、松たか子さんの様子です。
.@IdinaMenzel, @AURORAmusic and nine of the world's Elsas just took to the stage for a performance of "Into the Unknown." #Oscars pic.twitter.com/2QUW67HYiS
— The Academy (@TheAcademy) February 10, 2020
まさに、松たか子さんは「王家」「ロイヤル」なオーラをまとっているので、「ロイヤルブレッド」のイメージキャラクターとしてはピッタリなんですね。
さてさて、それでは、CM曲がなぜ「パッヘルベルのカノン」なのか。
パッヘルベルの「ロイヤル」
パッヘルベルはドイツの作曲家であり、教会のオルガン奏者です。
そして、彼は「宮廷音楽家」だったこともある、というので、これが、すでにもう「ロイヤル」な雰囲気ですね。
大バッハのお父さんと親しくなって、娘さんの名付け親になったり、息子さんヨハン・クリストフ・バッハの家庭教師をしたりと、バッハ家とは関わりが深くなりました。
そのヨハン・クリストフ・バッハの結婚式のために作曲したのが、この「カノン」だという説があります。ちなみに大バッハはこの時9歳で、出席していたとすれば、41歳のパッヘルベルと顔を合わせていた可能性があります。
結婚式の「ロイヤル」
日本でも結婚式披露宴では、参加者は正装にドレスアップして、豪華なホテルでのフルコース、という、やはり「ロイヤル」な雰囲気の場になりますね。
結婚式や披露宴での音楽として、「パッヘルベルのカノン」は、よく流されているのですが、もともと結婚式のために作曲された曲だとすれば、まさに「ロイヤル」な、正しい使われ方をしていると言えます。
実際、結婚式披露宴でこの曲を聞いていると、人の幸せを願う思いがこみ上げて来ますね。
最高音部のメロディーを聞いていると、パッヘルベルの、新郎新婦が結婚できて本当に良かった、という心の底からの思い、そして、幸せになってね、という限りない願いが感じられて、感動的です。
「ロイヤル」とは、人を思いやること
「ロイヤル」とは、韻を踏むわけではありませんが、「人を思いやる」、ことなのかも知れません。
人を幸せにすること、人を喜ばせることが「ロイヤル」。
現代でも、王様のスピーチを聞いていると「国民の幸福を願う」という言葉がよく聞かれます。
ラーメン屋の親父が「客に喜んでもらえりゃいいのさ」と言うのも同じことですね。
そう思うと、すべての社会的な仕事は「人のため」になる仕事なので、そんな意識をもって仕事をしている人はみんな「ロイヤル」なのだと思います。
カノンとは「輪唱」のこと
「パッヘルベルのカノン」と普通は言いますが、正式な曲名は、
『3つのヴァイオリンと通奏低音のためのカノンとジーグ ニ長調』
原題は、「 Canon a 3 Violinis con Basso c. / Gigue」 です。
なお、c.というのは、continuo(コンティヌオ)「持続する」の略です。
で、現在よく演奏されて私たちが知っているのは、後半の「ジーグ」(舞曲)を省略した、前半の「カノン」の部分ですね。
「カエルのうた」も「輪唱」
例えば「カエルのうた」や「静かな湖畔の森の影から」のように、最初のコーラスパートが歌い出して先行して行くメロディーをお手本にして、ちょっと遅れて、2番めのコーラスパートが全く同じメロディーで追いかけて行きます。
そうすると、先行しているメロディーと、遅れて歌い出したパートのメロディーが、ずれて重なって行くことによって、ハーモニーを作ることが出来るのです。
人数がたくさんいれば、3番目、4番目と追いかけて行けます。
こちらは「 Frère Jacques」(フレール・ジャック)というフランスの童謡で、輪唱になっています。
童謡の場合は短い曲ですが、パッヘルベルのカノンはとても長い曲なので、私たちをはるか遠くにまで運んで行ってくれます。
「パッヘルベルのカノン」は「3つのバイオリンと通奏低音のための」、なので三重唱、この場合は楽器で演奏するので三重奏ということになりますね。
「通奏低音」とは「コード進行」のこと
「通奏低音があるじゃないか」ということもあるのですが、通奏低音はあくまでも伴奏であって、メインのメロディーは3つの声部ということになります。
通奏低音は「低音」という言葉が入っているので、「ベースだけじゃないの?」と思いますが、このバロックの時代は、楽譜に書かれたルート(根音)となる単音をもとにした「ジャーン」といういっぺんに鳴らす和音や、アルペジオなどのように「ポン・ポン・ポン・ポン」と順番に分散して行く和音を含めて「通奏低音」と言ったのですね。
つまりは「ベースになる和音」ということなので、まさにこのバロックの時代における通奏低音とは、現代におけるポップスやロックで言うところの「コード演奏」のことなのです。
クラシックで言えば、基本的に一つの音だけを出すチェロやコントラバスと、一度に複数の音が出せるハープシコードやハープ、ギターなどを合わせて「通奏低音」です。
ビートルズの「通奏低音」
ビートルズで言えば、ポールのベースとジョンのリズムギターが通奏低音ですね。
そこにジョン、ポール、ジョージの3声コーラスメロディーが乗ります。
パッヘルベルのカノンでは、通奏低音として冒頭イントロ部分から2小節の間に8つのコードがあり、これを28回繰り返します。
D - A - Bm - F#m - G - D - G(Em/G) - A※
※ G(Em/G)というのは、ここはEmの和音なのでジョンのリズムギターは普通にEmのコード(和音)を弾いていいけど、ポールのベースは本当なら出す音であるE(ミ)の音ではなくてG(ソ)の音を弾いてね、という意味です。
感動を呼び起こすコード進行
実はこのコード進行は、この「感動的な」パッヘルベルのカノン以降「感動を呼ぶコード進行」と呼ばれて、現代に至るまで色々な曲に使われています。それこそビートルズの「Let It Be」(レット・イット・ビー)のコード進行にも取り入れられています。
次々と変奏されていくメロディー
この、人生の歩みのような、時の流れのような、止まることのない、一定のリズムを繰り返して行く通奏低音の伴奏が始まると、2小節遅れの3小節目から、まず第一バイオリンによるメロディーが始まり、そのメロディーが、このコード進行に従ってどんどん形を変えて「変奏」されて行きます。
そしてそれを追いかけるように第2バイオリンが2小節遅れて、全く同じメロディーをなぞって行きます。
さらに第3バイオリンが2小節遅れて、これまた全く同じメロディーで追いかけて行きます。
この3つの声部の同じメロディーが2小節のズレで重なって行くと、もともと鳴り続けている通奏低音ともからみ合って、とんでもなく美しいハーモニーになって行くのですね。
人生のよう
結婚式に出席したつもりで、パッヘルベルのカノンを例えてみると、何もないところに新郎の人生が始まり、途中から新婦の人生が重なり、さらに途中から子供や、関わりを持つ人の人生が加わり、にぎやかになった人生がカラフルに続いて行きます。
盛り上がったり、静かになったり、急ぎ足になったり、ゆっくり歩いたり、人生にはいろいろな変化があります。
静かになると、ひたすら一定のリズムでテンポを刻んでいる通奏低音が聞こえて来て、人生がにぎやかな時には気が付かない、疲れを知らない時の流れを意識させます。
それからまた、メロディーがすこしずつ、にぎやかになって来ます。
さらに盛り上がって行きます。
エンディング
そうして、どうしてもやって来る曲の終わりには、まず先行していた第一声部が演奏を終わって、次に第二声部が演奏を終わって、だんだん静かになってきて、最後の第3声部も演奏を終え、あとには通奏低音だけが残り、その通奏低音も、残り二小節でひっそりと終わる。
というのはあまりにも切ない、というので、パッヘルベルは、ある程度のところで、全楽器が一斉にエンディングノート(最後の音)を響き渡らせることによって、演奏を終結させます。
そこで大拍手。
しみじみとした感動の嵐ということになりますね。
さあ、松たか子さんのロイヤルブレッドな一日は、どんなカラフルハーモニーを奏でることになるのでしょうか。
今回のお話
今回は「ロイヤルブレッド」CMの「パンを楽しむ人へ」篇を見て探ってみたら、松たか子さんがロイヤルなイメージそのものの女優さんであり、歌手であるので、「ロイヤル」がキーワードになるこのCMに起用されたことに、まず納得。
そして、「パッヘルベルのカノン」は、パッヘルベル自身が宮廷音楽家なので「ロイヤル」であることに加え、この曲自体が、結婚式という「ロイヤル」な場のために作曲されたまさに「ロイヤル」な曲であることが分かってさらに納得。
そこから、「ロイヤル」とは人を幸せにすること、人の幸せを願うこと、人を思いやることではないか、という事に思い至り、パッヘルベルのカノンはまるで人生を表しているようだと「フカヨミ」出来る事にも気がついた、というお話でした。
この記事を読みに来てくださったみなさんが、幸せでありますように。